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私がケア業界にいて辛いワケ〜『ケアの惑星』読了〜

わたしは新卒からケア業界に身を置いている。
そしてそこは株式会社の管理部門である。

2020年から続くコロナ禍に加え、昨年のケア業界では信頼を揺るがすような事故・事件が多発。
もう正直言って業界全体が崖っぷちである。

私も例外ではなく毎日ああでもないこうでもないと唸りながら仕事して、衝突もして、どうにもならなくて辛くて泣きたくなることもある。

ケア業界の者として小川公代さんの『ケアの倫理とエンパワメント』は以前読んでいて、『ケアする惑星』の出版はとても楽しみにしていた。

『ケアする惑星』をついに購入し、先週は刊行記念トークイベントの「文学を通してケアを語る」 をなんとか頑張って定時退勤して視聴した。
なんで私が今こんなに辛いのか、ちょっとわかった気がしたのでそれを書いてみる。

ケアと資本主義の最悪の相性

ケアは、資本主義とすこぶる相性が悪い。
理由はケアの本質にある。

【ケアのプロセス】
①相手のニーズを読み取って心を通わす「共感」
②実際のケアに行動を移す「ケア実践」

このプロセスは、まさにケアの核心である。
マニュアル通りに行うだけではケアではなく、作業になってしまう。
また、ケアの対象に「そうでしたか、大変でしたね」と声をかける心から思うだけでは全く不十分で、その共感をもとに「ケア実践」をしなければならないからだ。

いくら心に寄り添って実践したとて、ケアの対象と以心伝心なわけではない。
それが本当に喜びや楽しさや感動を生み出すのか?は、やってみないとわからないことの方が多い。

適切なケアに辿り着くまでには、膨大な時間が必要なのである。

しかし、株式会社の目的は利益追求。
利益を上げるべく運営し、成長し競争に勝ち続けなければ自社の労働者すら守ることができない

※ケアに限らずどんな仕事でも悩み、遠回りする時間は必ず発生する。
この遠回りする時間が短ければ短いほど、資本主義の社会では「優秀である」と評価されるのかもしれない。

人件費率の高いケア事業で利益を上げるには、的を得ないケア実践を最小限に抑える必要が出てくる。

うまくいけばそれはそれでいいのだが、「無駄の削減」として保守に走り、ある種実験的な取り組みが失われていく危険もある。

もっと深刻なときには、共感の軽視=ケアの作業化や重大事故など、ケアの本質を欠く大問題が発生するのである。

ケア業界の管理サイドの悩み

管理者はケア労働者に、常に「そのケアの目的は何か?」「どんな効果を見込んでいるか?」を問わないといけない。
また、資金も無限ではないので、いくら良い備品を買いたくても、もっと人を雇いたくてもできないこともある。
労働者に還元する賃金を捻出するために、利益を出そうと新たな取り組みを始めなければいけない時もある。

その問いかけ方、現実の提示の仕方。
これがもっとも重要かつ気を使うことである。

ケア労働者に「管理者が利益追求にやっきになって、自分たちの行なっているケアを軽視している」なんて思われたら最後、築いてきた信頼なんて一瞬で木っ端微塵になる。
利益追求もまた労働者を守るためなのだということは、なかなか伝わりづらいのだ。

管理者が利益追求と共感のバランスを欠くと、現場がものすごい速度で窮地に陥ってしまうのがケア業界である。

そのため、管理者もケア労働者と密な対話をすることが必要で、かつかなり高度なコミュニケーションスキルも必要になるのである。

最終的に管理サイドも、密な対話をするために膨大な時間を割くという方法に立ち返らざるを得なくなり
「あぁ...資本主義の原理に反することをしてる...」
と葛藤するのだった。

でも結局「ケアで食って生きる人」を守りたいの


私自身、現場に何かを問う瞬間、伝える瞬間はものすごいプレッシャーで、いつも辛い。
私が共感を欠いたことが原因で現場と喧嘩になったことは一度や二度ではないし、現場の感覚が株式会社として目指すべき方向と真逆に走っていたことが原因の喧嘩も同じくらいある。

感情労働を資本主義のシステムの中に組み込んだがために、折り合いのつかない歪な構造ができる。
それはもう私1人ではどうにもならない事で、どう工夫しようが最終的には資本主義の渦に飲み込まれていくのだった。

やることは果てしないほどあるのに、やったからといって何か変えられるわけでもなく、自分が無力でちっぽけで泣きたくなる。

でも、長い歴史の中で、ケアの価値は貶められてきた。
低賃金で長時間働くことを強いられているケア労働者もまた、ケアの対象なのである。
そして、この新自由主義の社会の中で「福祉」で経済的な自立をしようと試みることに、どうしても特別な意味を感じてしまう。

だから、どんなにやるせない気持ちになっても、「ケアで食って生きる人」を守らなければいけないと思ってしまうのである。

いつもがんじがらめな業界で、明日もまた足掻いてみる。

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