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揺らぎある鬱屈した世の中だから考えたい〜いまこそ、ヴァージニア・ウルフ『三ギニー』〜

年明けからヴァージニア・ウルフを読み漁っていて、『自分ひとりの部屋』から『三ギニー』へ移行した。

〈いかにして戦争を防ぐことができるか?〉という問いに対し、以下のような3つの非営利団体にそれぞれ1ギニーずつ寄付する、と回答する形式を取る。

①女子寮建て替え
②女性の就職支援
③「文化と知的自由を護る」協会

『自分ひとりの部屋』(1929)で、ウルフは「女性が小説を書くためには年収500ポンドと自分ひとりの部屋がなくてはならない」という有名な主張を展開した。しかし、...本書では...「女性が年間250ポンドの収入を得ることはなかなかない」と、当時の女性の現実に即した数字が示される。
訳者解説  片山亜紀

女子に与えられる教育機会と投資

ミドルクラスの家庭の子どもに目を向ける。
兄弟には2000ポンドもの教育資金を与えるにもかかわらず、姉妹に許されたのはドイツ語のレッスンのみ。
家庭内において、男子の教育へ極端に資金を投入したことによって、女子教育でしわ寄せが発生していた。

また、男性に対して大学教育は500年も前から開かれていたにも関わらず、イギリスでやっと大学に女子カレッジが開かれたのは19世紀のことだった。
しかし、当初は単位も認定されなかった。

女性の社会参加

ミドルクラスの女性は家庭に帰属していて、経済活動を行っていない。
19世紀初頭、多くの女性が工場で勤務している。このような労働者階級の女性たちがストライキを起こせば、社会が麻痺する。
しかし、ミドルクラスの女性が家庭を放棄したところで経済活動に与えるインパクトはどれほどのものだろうか。

第一章でも述べたように、社会は女性の能力を男性より劣ると決めつけ、意思決定の場からも隔離して無力な存在にしてきた
にも関わらず、いまそのように虐げられている女性に対し〈いかにして戦争を防ぐことができるか?〉と尋ねる。
なぜか?その矛盾に対するウルフの詰め、煽りが凄まじい。

ひらかれた言論

文筆は、才能ある者であれば誰にでも開かれていたフィールドである。
19世紀には多くの女性作家が優れた作品を世に送り出したが、この職がなぜ、ガヴァネス以外で女性が対面を汚さず就けるものとされ受け入れられたのか。
それは男性のフィールドを脅かさないからではないか。

生まれながらになんの財産ももたないミドルクラスの女性たちにも、紙とペン、すなわち限られた手段があった。
そして誰しも「書くな」と抑圧することはできなかったのである。

制度によって社会全体で特定の集団を無力化することの惨さ。反対に、いま私たちに豊かな文化と教育機会がある幸福を感じずにはいられない。

今、(ウルフの生きた20世紀初頭のイギリスと比較すれば)先人たちのおかげで、私たち女性の労働者は社会の構成員としてある程度のインパクトを持っている集団である。
では私たちは社会の退廃を食い止めるために何ができるのか?

深く深く考えさせられる一冊だった。

今年は深化する一年に。

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