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「脊髄空洞症」と「脊髄髄内腫瘍」をふりかえる

先日、「脊髄髄内腫瘍」の手術をして療養中だった人気アイドルAKB48の柏木由紀さん(ゆきりん)が無事に復帰しました。


なぜいきなりゆきりんの話なのかといいますと……実はわたしも過去に同じ病気で手術をした経験があるからです。

一部のニュースでは「10万人に1人の難病」と言われているように、今回ゆきりんが発症した「脊髄空洞症」「脊髄髄内腫瘍」は、普通の人にはなじみのない病名だと思います。わたし自身も自分が罹患していなければまず知らなかったし、今まで同じ病気の人に出会ったこともありません。

だからもともとゆきりんの熱心なファンだったわけではないのですが、ニュースを見て勝手に親近感を抱いてしまい、絶対に元気になってほしいと思っていました。(爆速で復帰してくれてとても元気そうなので何よりです!)

といっても、わたしが手術をしたのは約20年も前の話。今は完治して普通の生活を送っているので、今さらあえて書くことでもないのですが…。それでも、もしかしたら同じ病気の方やその家族が知りたいこともあるかもしれないと思い、この機会に病気発覚から今までのことを思い出しながら書いてみようと思います。

ずいぶん昔の話であまり参考にならないかもしれませんが、ほんの少しでも誰かの役に立つ情報があればうれしいです。

約20年前に「脊髄空洞症」と「脊髄髄内腫瘍」の診断を受け、腫瘍摘出手術を受けた患者の経験です。詳しい医療の知識はなく、思い出しながら書いているので記憶違いや間違いがあるかもしれません。
※古い経験なので今とは治療法が異なるところもあると思います。
※同じ病名でも症状や治療法は人によって異なり、必ずしもこの通りではないと思います。

以上をご承知おきの上、興味がある方は参考程度に読んでいただけたら幸いです。

病気が発覚するまでの経緯、自覚症状

病気が発覚したのは、中学1年生の秋頃。きっかけは手に力が入らなくなったことでした。

ペットボトルのふたが自力で開けられないことに違和感を抱いたのが最初だった気がします。しばらくは「こんなに非力だったかな…」と思ってそのまま過ごしていました。でもそのうちに制服のシャツのボタンも自分で留められず、日常生活に支障が出るレベルに。「これはちょっとおかしいぞ…?」ということで、母親に連れられて近所の内科を受診しました。

近所の内科で先生に症状を説明し、握力を測りました。自分では一生懸命握っているつもりなのに全然力が入らず、握力計の目盛がほとんど動かなかった記憶があります。かろうじて利き手の右手は少し動いたかな。それでもほぼ0に近いような状態だったと思います。

レントゲンなどの検査もしましたが結局そこでは原因が分からず、「脳や神経の病気かもしれない」と言われて大きい病院を紹介されました。

このときのほかの症状は、筆圧がとても弱くてノートの字がかなり薄い、習っていたピアノが上手く弾けなくなる…などもありました。あとはテニス部だったのでボールを打とうとしてラケットごと吹っ飛ばしたりもしていました。危ないよ。


「脊髄空洞症」→「脊髄髄内腫瘍」の診断を受ける

紹介されて受診したのは総合病院の脳神経外科。生まれて初めてMRI検査を受けました。医療ドラマなどでよく見る白いトンネルみたいな機械の中に入れられて、体の中の断面を撮影する検査です。

検査中「カタカタカタ…ビーーー!!ゴォオオオオ!!!」と大音量で機械音が鳴り響くので最初はビクビクしていましたが、その後何十回もMRIを受けることになるので、今では検査中も寝られるレベルになりました。適応力。最近のMRIは昔より静かになりましたね。

後日結果を聞きに行くと、「脊髄空洞症」という聞いたこともない病名を告げられました。ゆきりんも最初に疑いがあると言われた病名だと思います。

脊髄の中に水がたまっていて、そのせいで神経に影響が出ているとか。そして水を抜くために脊髄の中にチューブを入れる手術が必要だと言われました。そんなえらいことになっているとは思っていなかったので、先生の言葉があまり頭に入ってきませんでした。

ただ、珍しい病気で症例が少ないので、セカンドオピニオンのため県外の病院も受診することになりました。このあたりは親が先生にお願いしたのか、先生が提案してくれたのか記憶が定かではないのですが。父の運転で遠くの病院に行ったのはなんとなく覚えています。

結局その後、元の病院で造影剤(より鮮明に撮影するための薬)を注射してMRIの再検査をした結果、脊髄の中に腫瘍があることが分かりました。「脊髄髄内腫瘍」と診断され、腫瘍が神経を圧迫しているせいで、手に力が入らなくなっているとのことでした。

脊髄空洞症はなんだったんだ?という感じですが、最初のMRIの画像では腫瘍がはっきり写っていなくて分からなかったようで。「脊髄髄内腫瘍」が原因で「脊髄空洞症」になっていた…のかな。詳細は忘れてしまったのですが、結果的には最初に言われた水を抜くためのチューブを入れる手術ではなく、腫瘍を摘出する手術をすることになりました。

ゆきりんも公開されている情報を見る限りでは「脊髄空洞症」と「脊髄髄内腫瘍」の二つの病名が出てきているので、もしかしたらわたしとわりと近い経緯なのかなと思っています。詳細は分からないので一概には言えませんが。

ちなみにわたしはゆきりんのように手のしびれはなく、力が入らないだけだったので、症状も人それぞれ違うのだと思います。

「脊髄髄内腫瘍」で腫瘍摘出手術を受ける

手術はその年の冬、クリスマスの日に受けることになりました。何もクリスマスじゃなくても…と思いましたが、看護師さんから「健康がサンタさんからのプレゼントだね」と言われ、それもそうかと。

手術前にほかに悪いところがないか調べるために体中の検査が必要で、手術の1週間前くらいに入院しました。中1の冬でやっと中学生活にも慣れてきた頃だったので、入院してしばらく学校に行けなくなるのは不安でした。

毎日のようにエコーやらCTやらいろんな検査をしましたが、血管にカテーテルを入れる検査がめちゃくちゃ痛かったことだけはやたら覚えています。

手術は脊髄の中の腫瘍を摘出するので、まずは首の後ろを切って首の骨を外し、脊髄を切って腫瘍を取ってから骨を戻し…という聞くだけで痛そうな手術でした。

脊髄の中は神経が通っているので、少しでもずれると手足に障害が残るおそれがあり、顕微鏡を使った難しい手術だったそうです。他人事のように書いてますが、手術前はいろいろ説明されてもあまり実感がなく「へぇー」くらいにしか思えなかったんですよね。

わたし自身はわりと落ち着いていたんですが、一度両親だけで先生からの説明を受けたとき、病室に戻ってきた母が泣いていたのを見て、さすがに不安と申し訳なさを感じたのは覚えています。あとから聞いた話では、そのとき「一生寝たきりや車いす生活を送ることになる可能性もある」と告げられたそうです。

難易度が高い手術だったので、執刀は横浜の病院から経験のある先生を呼んでお願いすることになりました。この先生にはわたしも家族も一度もお会いできなかったのですが。

結果的に手術は無事成功し、腫瘍はすべて摘出することができました。10時間にもおよぶ大手術だったそうですが、良性の腫瘍でほかに悪いところもなく、今後の経過はリハビリ次第になりました。

術後~リハビリ

手術前はどこか他人事のようで泣きもわめきもしなかったわたしですが、術後は痛みで毎日泣いていました。

しばらくはベッドに寝たきりで体は動かせないのに、傷口は激痛という地獄のような日々で…。主治医の先生が様子を見に来て、わたしの足をつねって「感覚ある?」と聞いてくるのですが、その力が強くて痛いのでまた泣きわめきました。先生は「感覚があるから大丈夫!」と笑って去っていきました。ひどい…。

傷口の痛みもさることながら、顔を洗うとか、トイレに行くとか、お風呂に入るとか、今まで意識せずともできていた普通の生活ができなかったのもかなりしんどかったです。10日目くらいにベッドの上で洗髪できる器具を使ってシャンプーしてもらえたときは、頭を洗えることの素晴らしさに感激しました。

1週間くらいはほぼ寝たきりで過ごし、その後少しずつリハビリがスタート。起き上がれるようになってからは寝るとき以外は首にコルセットをはめ、移動は車いすでした。

手術前の症状は手に力が入らないだけで足に異常はありませんでしたが、術後は手よりも足に違和感がありました。ずっと足に何かをはめているような、自分の足が遠くに感じるような…熱いとか痛いとか何かが触れているとかは分かるのですが、なんとも言い難い違和感があり、思うように動かせなくなっていたのがショックでした。

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リハビリは作業療法士の先生と理学療法士の先生が一人ずつついて、手足のリハビリを毎日行いました。

最初は手を握ることも、自分の足で立つこともできないところから。なかなか思い通りにいかなくて精神的にも体力的にもしんどいことのほうが多かったですね…。それでもまわりの人に助けてもらえていたおかげで、なんとか続けられました。

2か月ほどリハビリを続けて、ようやく車いすから歩行器で歩けるレベルまで回復。確か手のほうが回復が早くて、この頃には箸を使ってごはんを食べられるようになっていた気がします。とはいえ、まだ普通に日常生活を送れるレベルではなかったので、治療ではなくリハビリをメインに行う病院に転院することになりました。

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リハビリの病院に移ってからは、行けるときは午前中だけ保健室登校し、午後は病院に戻ってリハビリ…という生活を送っていました。すごく学校が好きで行きたかったわけではないのですが、勉強が遅れるのを気にしてたのかな…。久しぶりに友達に会えたり、先生たちが気にかけたりしてくれたのは素直に嬉しかったです。

そんな生活も2か月ほど続けたのち、なんとか日常生活を送れるレベルまで回復し、晴れて退院となりました。

手術を受けた病院に約2か月、リハビリの病院に約2か月、トータルで4か月ほどのそこそこ長い入院生活でした。

退院後~現在

退院後は日常生活を送るのにほとんど支障はなく、握力も女子の平均程度に戻りました。運動制限なども特になかったので、普通に自転車で通学して、体育や部活にも出ていました。なんなら高校でもテニス部に入りました。テニス全然上手くなかったのに(笑)。趣味レベルですがピアノもまた弾けるようになりました。

今も再発していないか確認するために、定期的にMRI検査を受けています。最初は半年に1回や年に1回くらいのペースでしたが、再発していないので今は5年に1回くらいは検査しておこうか~というゆるい感じです。普通に忘れそうになるので、思い出したときに検査を受けています。

ただ、まったく後遺症がないわけではなく。

手足の感覚が完全に元通りにはなっておらず、多少の違和感は残っています。痛みや熱さは感じるし、特に動かしにくいわけでもないので「違和感がある」としか言えないのですが。そして20年この状態なので正常な感覚を忘れましたが(笑)。
末端冷え性がひどくて冬場になると動かしづらくなることはあります。(病気のせいなのかもともとそういう体質なのか不明です…)

また、手術と直接関係があるかは微妙と言われていますが、「側弯症」という背骨が曲がった状態になってしまっています。そのせいか、かなり意識していないと見た目でも分かるくらい姿勢が悪いのは、ややコンプレックスです。症状としては肩こりと腰痛もあります。
側弯症を治す手術もあるそうなのですが、今のところ生活に支障が出るほどではないので様子見にしています。

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そんな感じで完全な健康体!と自信を持って言えるわけではありませんが、一応病気は完治して今は普通に過ごせています。大変な手術をしてくださった執刀医の先生や主治医の先生をはじめ、かかわってくださった医療従事者の方たち、支えてくれた家族や友人には今でも本当に感謝しています。

20年も前の話で今はわたしのときよりももっと医療が進んでいると思うので、後遺症やダメージが残りにくい治療法や手術もあるかもしれません。
わたしは約4か月入院していましたが、ゆきりんは8日で退院したそうですし。ゆきりんの回復ぶりも異例だとは思いますが、爆速すぎてびっくりしました…すごい……。

ちなみに「脊髄髄内腫瘍」の原因は不明だそうです。術後に検体を研究に回すようなことを言われた記憶があるので、何かしらの役に立てているといいな。

わたしの場合は運良く手術で治せる状態で、良い先生に手術をしていただけたので今がありますが、進行具合や場所によっては手術がさらに難しくなることもあるかもしれません。この病気に限らず、みなさんも体に異変を感じたら早めに病院で診てもらうようにしてくださいね。

といってもそれすら難しくなってきている今の医療状況は本当に危機的だと思いますが……。どうかみなさん気をつけて。お互い身体を大切にして生きましょう。

長々と書いておいてあまり有益な情報が書けなかったのですが、完治して元気に生きている人もいるよという事実だけでも、誰かの希望になれたらいいなと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました!


あゆ(@aym_prism


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