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【怪談実話115】河童の行列

一九八〇年代、当時小学三年か四年だった陽子さんが、鹿児島の父親の田舎に一家で帰省した時のことだ。その際、父親の実家とは別の家宅に車で連れて行かれた。

「父は、子供の頃にその家の屋根裏を探検しては怒鳴られたと言って笑っていました。でも、それが親族の家なのか他人の家なのか何の説明もなかったんです。田舎の人って、いっつもこうなんですよ」

しんと静まり返った田舎の夜道をひたすら車で進み、その家に到着したのは真夜中だった。茅葺き屋根を有する大きな日本家屋。そんな造りの民家は今まで見たことがなく、重厚なスケールに圧倒された。

その家の三和土を上がるとすぐに板の間があり、既に何人かの大人たちが集まって談笑している。陽子さん一家が加わってからは、酒盛りが始まった。陽子さんも父親の隣にちょこんと座り、大人たちの輪の中に混ざっていた。

ひとしきり酒宴が進んだ頃、大人たちの誰かが奇妙なことを口にした。

「あの子、河童の行列が来たのに見てしもて……。それで死んだ」

和気藹々とした宴の雰囲気が一転し、不穏な空気が漂う。その家か別の家かは不明だが、近しい関係の男児が亡くなったという話だった。

「これだけだと意味わかんないですよね。大人たちの会話をまとめると……」と、陽子さんが説明してくれた。

「その地域では、夜間に何処からか音が聞こえてくることがあるそうです。祭りで使われるお囃子のような賑やかな音。地元ではこれを〈河童の行列〉と呼ぶんですって。その音は次第に近付いてくるのですが、音が完全に通り過ぎて聞こえなくなるまで布団を頭から被ったり目を瞑ったりして、絶対に何も見ないようにするようです。このように、〈河童の行列〉を見てはいけないという昔からの習わしがあるのですが……」

件の男児も、その掟を知っていた。だが、音が聞こえている最中に尿意を催し、どうしても我慢できず、離れにある便所に駆け込んだ。〈河童の行列〉が通り過ぎても、その男児は母屋に戻ってこなかった。親御さんが便所に様子を見に行くと、その場で倒れて息絶えていたという。
便所には、小窓があったそうだ。

「ああ。あの子は見たんやろうな」

別の誰かが、ぼそりと呟き同意した。

・・・

※鹿児島の一部では河童のことを「ガラッパ」と呼ぶが、本話の地域では「河童」と呼ぶそうである。陽子さんの祖父(鹿児島県人)は「河童さん」とさん付けで呼ぶとのことだ。

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