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【人が怖い実話18】スーパースターとの接触

本エピソードは、他人に怖い思いをさせてしまった者の視点から記述する。

Mという男性が経験した話。
2000年3月。その日、西日本の地方大学の卒業式(大学とは別の市内の公的施設で実施された)を終えた彼は、急いでアパートに戻り、スーツを脱いで運動用のウェアに着替えた。時間は夕方ごろだ。

なぜそんなに急いでいたかというと、大学のグラウンドで陸上部の友人らとサッカーをするためだった。Mが所属していた陸上部では、気分転換の一環として時折サッカーに興じていた。これがすこぶる楽しかった。
この日は同期の部員らとする最後のサッカーだったため、遅刻したくなくて急いでいた。

ウェアに着替え、自転車で自宅を出発する。
彼のアパートは、大通りから分岐する小道の50メートルぐらい先の家だった。
小道から大通りの歩道に出るときの曲がり角に建物があって見通しが悪いため、いつもは慎重に自転車を漕いでいた。だが、そのときは急いでいたため、安全確認を怠った。

けっこうなスピードを出したまま、小道から大通りの歩道に出てしまった。

「うゎっ」

Mは、急ブレーキをかけた。
出会い頭に、男性とぶつかりそうになった。

彼が自転車で大通りに出たとき、大通りの歩道を、地元の陸上競技の実業団チームが集団でランニングをしていた。1~2列になって10人以上は走っていた。その隊列の先頭を走っていた「T」という男子選手に、あわや自転車で接触しそうになったのだ。
幸い、T選手をはじめ、他の選手らにも怪我はなかった。

T選手からしたら、走っている自分の横から自転車が飛び出してきたのだ。ドキリと肝を冷やしたのではないだろうか。

Mは「すみません」と頭を深々と下げた。T選手や周りにいた選手らは不快な表情などはせず、「危なかったね」とにこりと笑ってその場を収め、颯爽と走り去って行った(Mはすっかり気が動転して、この状況は正確には覚えていない)。

MがなぜT選手を知っていたかというと、T選手がある陸上種目の日本記録保持者(当時)だったからだ。陸上部員だったMが、知らないはずがない。

それからMは大学に向かったのだが、ヒヤヒヤ感が拭えず、サッカーを楽しんだ記憶はないという。

・・・

それから4か月後の2000年7月。
T選手は、シドニーオリンピックの陸上種目で7位入賞した。それから20年経つが、その種目で日本人男子の入賞者は出ていない。

もしかしたら、あのとき、1~2秒タイミングがずれていればT選手に衝突して負傷させていたかもしれない。そうなると五輪入賞どころか出場すら危うかっただろう。Mに衝突されたT選手が道路に弾き飛ばされて車に撥ねられていた、という可能性も考えられる。


ちなみに、男性Mとは私のことである。

※この件から12年後、東京・八重洲のカフェでお茶していたとき、3つ隣の席にT氏が座っていた。次に遭遇するのは、2024年ということになるのだろうか。

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