【怪談実話114】人のセックスを笑う

大学生のショウ君が、彼女と温泉付きホテルに一泊した時のことだ。

天然温泉にどっぷりと浸かって命を洗濯し、レストランで豪華な夕食に舌鼓を打ち、その後に客室でお酒を嗜んだ。二人にはもったいないほど広々とした客室という非日常的な空間、浴衣姿の彼女、さらにはアルコールが、ショウ君の性欲中枢を過剰に刺激する。

その流れで、二人は身体を重ね始めた。
ベッド上で互いの裸体を絡ませてしっとりと戯れ、全身の血が滾ってきた矢先、彼女がしくしくと泣き出した。

予期せぬ事態に、ショウ君はいささか戸惑った。とりあえず一時休戦して「どうした?」と尋ねるも、彼女は口を開かない。
酔いが回る頭で次の一手を思料していると、彼女がゆっくりとショウ君の背後を指さした。

「彼女の亡くなったお祖父さんが、僕の後ろに立ってるって言うんです。自分たちを指さして、笑ってるって。僕が振り向いても誰も居らず、彼女にしか見えないようでした」

彼女の涙は、祖父が姿を現してくれて嬉しいという感情、吃驚したという感情、なぜこのタイミングなのかという感情などが渾然一体となった結果物らしい。祖父が悪意を放っている様子はなかったという。

「ちなみにその後って、どうされました?」と私が問うと、「そのまま最後まで続けましたよ。かなり酔ってて、あんまり頭が回らなかったし、せっかく見てくれてるのに途中で止めるのもどうかと思いまして」と清々しい表情でショウ君は答えた。

彼女の祖父が現れたのは、今のところその一度きりだそうだ。

「ことの一部始終を見られたわけで、お祖父さんに認められた、と言ってもいいのではないでしょうか」

背筋をピンと伸ばして少し誇らしげに語るショウ君の姿が、印象的だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?