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【実話怪談78】溜まり場

男性Nさんは学生時代、九州地方に住んでいた。4階建てマンションの最上階、フローリングで10畳ほどの広々としたワンルームでの一人暮らし。その部屋では、いくつかの奇妙な現象が起きていた。以下、列挙していく。

1つめの現象は、『白人の男』。
身長170~180センチの長髪で色白の白人男性が現れる。その男がはじめて現れたときは、部屋のドアのすりガラスの向こう側に立っていた。すりガラス越しだが、「整形手術後のマイケル・ジャクソン」のような雰囲気なのが分かったそうだ。

すりガラス越しだけでなく、Nさんの目の前に現れることもある。そのときは白い服を着ているものの全身が半透明で、男の向こう側にあるテレビが見えたという。全くの無表情で、危害を加える様子は感じられなかった。

他の出現形態としては、カーテンとカーテンの隙間に立っていることがある。ドアのすりガラスやカーテンの隙間に立っている場合は、顔の横幅が、すりガラスの幅や隙間の幅と同じだった。

2つめの現象は、『ベッドの足』。
Nさんのベッドの下部は、収納棚のない空間になっていた。部屋のドアを開けると、そのベッドの下の空間が視界に入る。

あるとき帰宅すると、ベッド下の空間に、人間の足首からつま先の部分だけが2本見える。まるでベッドから両足が生えているイメージで、成人女性らしき裸足だった。彼が部屋に入室すると、両方のつま先をくるりと彼のほうに向けるという。

その挙動を初めて目の当たりにしたときは、あまりに吃驚したため、いったん外出して近くのコンビニでしばらく時間を潰したほどだ。

ただ興味深いことに、「足」に慣れ始めたNさんがその足に気づかないふりすると、足は彼のほうを向かなかったそうだ。

「こちらが意識しなければ、むこうも応答しないんです」と彼は分析していた。

3つめの現象は、『物体の落下・移動』。
Nさんが帰宅すると、室内のハンガーラックに掛けてあった衣類が床に落ちて散らかっていることがある。そのまま床に落下していることがほとんどだが、室外のベランダに落ちていたこともあったそうだ。窓は閉じられているのもかかわらず、である。

また、玄関の天井に取り付けられた豆電球が、床に落ちて割れていることもあった。電球は、人間の手でひねらなければ外れないはず。彼によれば、「これが一番迷惑だった」とのこと。

4つめの現象は、『炊飯器の開蓋』。
玄関近くの台所に置いてある炊飯器が勝手に、ぽんっ、と音を立てて蓋が開くことがあった。この現象は、Nさんが玄関で靴を履いているときにのみ生じ、頻度は10回に1回くらいだ。

ちなみに、この現象を録画しようとビデオカメラを何度か設置したことがあったが、撮影時には蓋は絶対に開かなかったそうだ。

5つめの現象は、『異形の者』。
Nさんが浴室でシャワーを浴びているとき、どこからか人の視線を感じたことがあった。浴室にはもちろん自分しかおらず、アコーディオン式の浴室の扉を開けて外を見ても誰もいない。

ふと、自分の真上にある換気扇の通気口を目を向けた。

「20センチぐらいの片眼が、じろりと僕を見つめてました。眼しか見えませんでした。性別や年齢は解りません。浴室から這いずるように飛び出ました。その後一週間は、浴室に入れなくて銭湯通いでしたよ」

その「眼」の巨大さゆえ、彼は「異形」と表現していた。

これらの現象のいくつかは、時期的に重複して起きていた。
だが、身の危険を感じる程の実害がなかったことから、転居しなかった。

・・・

その後、ツテで知り合った若年の霊能者に自室を鑑定してもらう機会に恵まれた。Nさんよりも年下の男性だ。

上記の奇妙な現象の詳細を伝えていないにもかかわらず、霊能者はNさんの部屋に入るなり、テレビ、ベッド、ハンガーラック、浴室にそれぞれ別の霊が留まっているのを指摘した(炊飯器と豆電球落下の原因は不明)。テレビ付近に居る霊は、先述の白人男性の霊だ。

「鑑定によれば、僕の部屋は霊の通り道で、<道の駅>みたく複数の霊体が留まっているとのことでした。そこで除霊し、結界を張ってもらいました」

結界を張ると霊の侵入を防止できるが、いきなり結界を張ると、いま居る霊が部屋から出れなくなる。そこで、最初に除霊をしてから結界を張ってもらった。ここでいう「除霊」は、単に霊を追いやるという意味ではなく、その存在自体を完全に消滅させる行為だった。除霊には20分、結界を張るのは1時間程度を要した。

除霊と結界作成の後、「これでもう何も起きないです、この部屋では」と断言された。さらに霊能者は、こう付け加えた。

「Nさんが纏う“オーラ”に穴が開いています。右肩と左腰の部分です。この部屋から外出すると、外にいる霊がその穴に入り込んで、憑かれやすい状態になってます。その穴も塞ぎましょうか?」
「そりゃ塞いでほしいけど……。塞いだ場合のデメリットって何かある?」
あなたが、あなたでなくなります」
「どういうこと?」
「記憶が欠落したり、人格や性格が変化するという意味です」
「どれくらい変化するもんなの?」
「塞いでみないと、わかりません」

結局、Nさんは、オーラの穴を塞ぐことはしなかった。リスクが高すぎると判断したためだ。
除霊と結界作成後は、確かにその部屋では何の現象も起きなかった。

翌日以降、彼の真下の部屋のドアの前に、円錐状の塩が盛り付けられていたそうだ。その部屋の住人とは面識がなかったため、何が起きたのかは不明である。

・・・

追記1)
結界作成の際、部屋にいくつかの石を配置して祈祷らしき儀式をしてもらったが、そのときNさんはその部屋で友人とテレビゲームをしていた。
結界作成を見たいという理由で友人が何人か来たが、途中で飽きてゲームに興じていたという。
その際、はしゃぎすぎた友人の足先がその石に接触して弾き飛ばしてしまった。それにより結界作成が最初からやり直しになり、霊能者から叱責を喰らった。

追記2)
Nさんはオーラの穴を塞いでもらわなかったが、その後、霊の侵入等を制御するスキルを自力で体得した。

追記3)
Nさんは現在上京しており、4つめの現象の「炊飯器」は現在も愛用しているが、特に異常はないそうだ。

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