Bible Gamer 第六夜 「福音書」
福音書すごろく
自分のコマをふりだしからサイコロを振って進め、あがりを目指す絵すごろく(一般には単に"すごろく")は、現在でもポピュラーなボードゲームのひとつだ。
現存する日本最古の絵すごろくは、十五世紀に作られた「浄土双六」で、これは仏教由来の理念や教訓に基づいて構成されている。絵すごろくは、最初期から宗教的な世界観の中にあった。
キリスト教にまつわる絵すごろくも多くある。特に福音書はその題材としてよく用いられる。
福音書の様々な出来事を描いたマスを用意してつなげ、終盤に十字架刑のマスを置き、あがりを復活や昇天にするだけでも、それなりに雰囲気を持ったボードゲームを制作できるからだろう。
以下に、このような絵すごろくの事例をいくつか紹介しよう。
まずは「聖書すごろく イエスさまの旅(AVACO)」だ。これはファミリー向けの国産ゲームで、福音書をモチーフにした絵すごろくである。盤面は主にイラストで構成され、文章は子供でも読みやすいよう配慮されている。
また、文章の大部分は聖句を直接引用していないので、この絵すごろくを遊ぶ子供たちが通う教会が、どの種類の日本語聖書を用いていても食い違いが生じにくくなっている(この件について詳細は後述する)。
「あのほしに ついていこう(女子パウロ会)」は、シンプルなパズルや迷路などの立体的な装飾がいくつも施された仕掛け絵本だ。
この仕掛けのひとつが、「ルカによる福音書」第2章4節に記述された、マリアとヨセフがナザレからベツレヘムへと向かう道のりをテーマにした絵すごろくになっている。
素朴で細やかなイラストは美しく、子供たちと一緒に家族で楽しめる、優れたコミュニケーションツールだ。
芸術新潮2017年8月号には「イエスの人生すごろく」が掲載された。
この絵すごろくは福音書の流れに沿って制作されているが、セリフが昭和のヤクザ映画で使われたような偏った広島弁になっているなど、遊具というより、その体裁で創作されたアートだといえるだろう。
聖書クイズ
クイズ大会などイベントが開かれるほど聖書とクイズの相性は良く、そしてそのような商品も多数ある。
アメコミ風のイラストが目を引く「The Action Bible Guess-it Game」は、聖書クイズをゲーム化した商品である。
本作の元となった枠組みは、古典的なコミュニケーションゲーム「二十の質問(Twenty Questions)」だと思われる。「二十の質問」は、回答者が出題者に最大20個の問いかけをしながら、できるだけ少ない質問数で回答を当てる遊びだ。質問をするのは回答者の側だけである。
本作はこの逆のシステムになっている。出題者からカードに列記された20個のヒントを順番にひとつずつ読み上げ、一方で回答者は、できるだけ少ない数のヒントで答えを推測するのである。
英語版でハードルは高いものの、聖書の固有名詞を除けばわりと平易で短い英文なので、もしかしたら英語の学習にも役立つかもしれない。
「The Life of Christ A Christian Bible Game」は、福音書すごろくと聖書クイズを足し合わせたようなファミリーゲームである。
まずサイコロで自分のコマを進めてから、場に公開されている4枚のカードから1枚を選び、そこに書かれているクイズに答える。このクイズに正解したら、もう一度サイコロを振って先に進める。1回の手番でクイズを最大連続3回まで答えることができる。
こうして、最後のマスに入って最後の1問に正答した最初のプレイヤーの勝ちとなる。
クイズ系のボードゲームとしては至ってシンプルで、家族や友人たちと聖書の知識を競い合うには、ちょうど良いバランスでまとめられている。
またクイズの出題範囲は福音書に基づいているので、イエスの公生涯の知識も身につくだろう。なお、これも英語版である。
トリビアル・パスート
雑学クイズとボードゲームを融合させたタイプのゲームとして、有名なタイトルのひとつに「トリビアル・パスート」がある。
「トリビアル・パスート」は、80年代にアメリカで一大ブームとなり、後年には日本語版も発売された(上の画像は日本語版)。
サイコロを振ってコマを進め、止まったマスに指定された分野のクイズに答えることでゲームは進行する。1000枚ものカードに用意されたクイズの総問題数は6000問にも及ぶ。
超人気作だったトリビアル・パスートは多数の関連商品も発売された。それらには、ディズニー版やスターウォーズ版など、テーマを特定のジャンルに絞ったラインナップがあり、そのひとつに聖書バージョンがあった。
それが、1984年にアメリカで発売された「バイブル・チャレンジ(Bible Challenge)」である。しかも本作は、その翌年に早くも日本語版が発売されている。
「バイブル・チャレンジ」は、「トリビアル・パスート」に比べて問題数が少ない(1001問)ものの、オリジナルより優れた特長がある。
「トリビアル・パスート」は1981年発売で、問題の中には時事問題が少なからず含まれている(発売当時のテレビ番組に関するクイズなど)。そのため、今これをそのまま遊ぶのはなかなか厳しいものがある。
しかし、聖書ならこのような不都合は生じない。なぜなら聖書の内容はいつの時代でも変わらないので、そのクイズも古くなることはないからだ。
日本語聖書特有の懸念点
ただし、本作には別の気がかりな点が存在する。それは、日本語版「バイブル・チャレンジ」の底本が新改訳聖書第三版だということだ。
クリスチャンであればよくご存じのように、日本語聖書には複数の種類がある。そして版元や版数が異なる日本語訳聖書は、個々の聖句が置かれている位置やその意味が同じでも、訳語や文章表現が異なっている。
つまりこの場合、本作を遊ぶ人が慣れ親しんでいる日本語聖書によっては、クイズの正答が変わってしまうことがあるのだ。
たとえば、「バイブル・チャレンジ」の外箱に巻いてある帯には「エリヤはどのようにして天に上っていきましたか?」というサンプルの問いがあり、この正解は「たつまきに乗って」となっている(列王記下/列王記第二 第2章11節)。
これは新改訳であれば2017でも第三版でもその通りである。しかし、口語訳や聖書協会共同訳は「つむじ風の中を」、新共同訳は「嵐の中を」が正解となる(※本記事の末尾に参考文を掲載した)。
これは日本語版「バイブル・チャレンジ」に限ったことではなく、聖句を日本語で表記したゲーム(カルタなども含む)や絵本などには同様の差し障りが起こりうるので、それらを購入するのであれば留意した方がよいだろう。
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