同じ想ひを抱くため

青い服の人形と赤い服の人形が窓辺で外を眺めてゐます。

（ねえお兄さん、あの遠い山の向かうには何があるのかしら）
（さあね、何があるんだらうね）
（行つてみたいわね）
（さうだね、見てみたいね）
（山の上に雲が見えるから、向かうはきつと雲ばかりよ）
（でもねえ、その雲の下に何があるんだらうね）
（雲の下にはねえ、ええと、また家や道があるのよ）
（ぢやあ、この町と同じだ）
（でも違ふの、だつて遠い町だから）
（さうかなあ、さうかもなあ、
　どんな町並みだらう、それに知らない人だらけだらうね）
（お兄さん、遠い町に憧れるんだ）
（まあね、旅に憧れる冒険家、カッコいいだろ…）
（そんなところに、もし知つてる人が居たとしたら…）
（逢ひたくなるね、だから旅をする）
（それに知らない土地で、誰かに巡り会ふかも知れないし…）
（さうだ、出会ひを求めて旅をするんだ）
（さうして、また別れてさすらひの旅に出るの…？）
（人は人を慕ふもの、だから旅をするのさ）

青鳩が二羽やつて来て、庭の木に止まりました。
木の実をついばんでゐるのでせうか、誰かの話を聴いてゐるのでせうか。

（ふふふ、お兄さんッて、旅人といふより詩人よね）
（どうして？）
（だつて、本当はどこにも行かないんでせう、夢を見てゐるだけ）
（ずばり言はれちやつた、しやうがないよ、僕は人形だからね、
　人形は夢をみることしかできない）
（でも、夢の世界の話を聞くのは、わたし好きよ）
（僕の夢は、本当は誰かさんの夢なんだ、
　僕とその人と夢を分け合つたんだ）
（わたしにも分けてちやうだいな…詩人さん）
（誰でもね、何もできなくても、分け合えるものがあるんだ、
　…人が人を慕ふのは、夢を分け合ふため、同じ想ひを抱くため…）

青鳩たちが飛び立ちました。空高く舞ひ上がつて、遠くへ遠くへ飛んで行き、やがて見えなくなりました。山の向かうに飛んで行つたのでせうか。