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【脚本】ミニ・ギャングスタ・マイス

著:松田、大島、山田

〇あらすじ


子積さん達はチーズ工場を根城にしているギャング。
しかし、チーズ工場は休む暇なく稼働中。
そんな中でギャングは従業員に日々仲間を殺害されている。
そんなチーズ工場を舞台にした従業員(人間)とギャング(鼠)の抗争が始まる。

○登場人物

・中田さん
・子積さん(こせき)
・従業員1
・従業員2
・駆除業者
・工場長

【シーン1】

中田:またやられたっちゅ〜の!? 子積さん子積さん、今月の被害多すぎない!?

子積:チーズ工場の奴ら、最新兵器を設置しやがったようだ。

中田:最新兵器ぃぃ?

子積:あぁ、従来のネズミ捕りに粘着性のシートも備え付けてあった。仲間を助けようとしたら、そいつも捕まっちまうのさ。

中田:対策は練ったでしょうっ!俺たちの信条第8項に書いてあるっちゅ〜のに!『腹が減っても食い意地は張るな。』なんで皆守れないの〜!何人も殺されてるってのに!

子積:その罠だけが原因ではないようなんだ。チーズ工場の奴ら、雇ったらしい。

中田:や、雇った……だと?

子積:ネズミ駆除業者をね。奴は従業員になりすまして活動しているようなんだ。

中田:子積さん。少し、暴れすぎたな。

子積:中田さん、諦めちゃいけない。俺たちは工場を占拠して、夢の国を創りあげると決めたじゃないか。

中田:しかし、ネズミ捕りだけでも甚大な被害なのに駆除業者まで介入してきてはどうしようも。

子積:我々の武器は圧倒的な数です!幸いにも駆除業者はたった一人。作戦ですよ、作戦を練るんです、中田さん。

中田:そうだな、諦めるのはまだ早かった。ありがとう、子積さん。

子積:いや、いいのさ。それで作戦だが、中田さんは部隊を率いて駆除業者の道具を隠してくれないか。おれの部隊は各地に散らばるネズミ捕りをそこに集める。

中田:そして駆除道具とネズミ捕りをくっつけて使えなくするってことだな。

子積:あぁ、念には念をだ。仮に見つかっても道具は使えない。

中田:まて、だが従業員はどうする?駆除業者もだ。奴らは道具がなくても相当な巨体だ。

子積:危険だが、考えがある。

中田:子積さんが囮となって注意を引きつける。その後集団で後ろから襲いかかる。

子積:よくわかったな。

中田:長い付き合いだからな。子積さんの建てる作戦なんて自分が危険な立場に立つことばかりだろう。

子積:他にできるやつがいるか?おれしかしないだろ。

中田:今回ばかりは子積さん一人には任せない。おれも囮になろう。

子積:無謀だ!

中田:無謀じゃない!おれだって経験は積んできたんだ。昔のように守られてばかりじゃない。

子積:……絶対に折れない。って顔だな。

中田:折れない。

子積:わかったよ。だけど、守ってはやれないぞ。そんな暇は無いと思う。

中田:大丈夫だ。子積さんこそ失敗するなよ?

子積:いいか、中田さん。俺たちが担当するのは駆除業者のみだ。仲間が従業員にどれだけ捕まろうが放っておくんだ。ミッションを成功させるには余所見は禁物だよ。

中田:まずは駆除業者と従業員を見極めなければな。

子積:あぁ。

中田:さぁ、子積さん皆に命令を。

子積:皆ぁ! 聞いてくれ!

●SE「鼠の声いっぱい」

中田:リーダーが決断をした!静かにしろ!

子積:チーズ工場の占拠に移る!それぞれの部隊は配置に着き、部隊長の命令に従え!部隊長はこちらに。

●子積、中田ハケ

【シーン2】

チーズ工場では毎日チーズを作っている。鼠にも耐性があり、鼠を見たくらいでは騒がない。そして、中には鼠にチーズをこっそりとあげる従業員も。こういう従業員は駆除業者をよく思っていない。鼠は一部ではペット視されているの言っても過言ではないのだ。

従業員1:ねぇ、聞いた? 鼠の駆除業者を雇ったんですって。

従業員2:え、とうとう業者に頼んじゃったんですか?世間にバレたら工場潰れちゃいますよ!?

従業員1:なんかすっごい額の口止め料を払っているらしいわよ。

従業員2:工場長も必死ですね。

従業員1:そこまでしなくてもって思うのよねぇ。

従業員2:こっそりチーズあげちゃうくらいですもんね。

従業員1:うん……な、なんで、知ってるの?

従業員2:見ちゃいまして。

従業員1:工場長には内緒よ〜?

従業員2:大丈夫っす。話し相手がいなくなるのは僕も嫌なんで。あはは。

従業員1:助かるわぁ。

従業員2:それはそうと、駆除業者ってどこにいるんですか?

従業員1:従業員になりすましているらしいわよ。

従業員2:まじすかっ。

従業員1:噂よ、噂。

従業員2:でもここの鼠って、たまに頭良い奴いますよね。そいつの対策だったりするんじゃないすか?

従業員1:あの子ねぇ。見つけたと思ったらすぐにどこに行ったかわからなくなるのよね。

従業員2:鼠って、怖くないですか?

従業員1:私は別に……

従業員2:いや、怖いって言っても一匹とかじゃなくて。ほら、一匹見つけたら百匹はいるって言うし。

従業員1:それはゴキブリよ〜。

従業員2:実際鼠もそんくらいのもんっすよ。で、その何百匹って鼠が一斉に現れたら、怖くないっすか?

従業員1:う〜ん、確かに、それは怖いわね。

従業員2:まぁ、あいつら警戒心強いっすからね。無駄に出てきやしないでしょう。

従業員1:あら、このチーズも商品にできないわね。鼠にあげましょか。

従業員2:あ、そういうチーズをあげてたんですね。

従業員1:当たり前じゃない。さすがに商品価値のあるチーズはあげないわよぉ。

従業員2:鼠もこういうチーズだけを狙ってくれたらいいんですけどね。

従業員1:ウィンウィンの関係ね。

従業員2:うちでも一応「わけあり品」として売っていますよ〜。

従業員1:あら、そうだったわね。すっかり忘れてたわぁ。

●従業員1、2ハケ

【シーン3】

それぞれの配置についたネズミたち。そして子積、中田は囮になるべく駆除業者を探していた。

子積:いないなー駆除業者

中田:あらわれないなー駆除業者

子積:中田さん、リストをもう一度見せてくれ

中田:はいよ

子積:相変わらず従業員の人数は多いが、どれも見知った顔だな。

中田:あ、あの人!

子積:知っているのか?

中田:うん。最近俺たちにチーズくれる人の友達だよ。

子積:なんだと?

中田:あれ?知らなかった?

子積:あぁ。そんな人間がいるのか…

中田:うん。俺たちのことをかわいいね〜って言いながら、商品化できないチーズをこっそりくれるんだ。

子積:中田さんも貰っているのか?

中田:うんん。俺はまだ貰ったことがない。羨ましいと思うけどね〜

子積:くれぐれも気をつけろよ。どれだけ取り繕うとも、人間は人間。俺たちの敵だ。

中田:分かってるよー

●中田、子積ジッと人間の様子を窺う。

中田:それにしても、駆除業者来ないねー

子積:少し…気になることがあるんだ。

中田:なんだい?

子積:中田さんはあそこにあるネズミ捕りをどう思う?

●中田、設置されているネズミ捕りを見る。

中田:そりゃー危険だなって

子積:そうじゃない!

中田:はいい??

子積:俺たちはアレを‘ネズミ捕り’だって認識できているんだよ。

中田:あぁ。確かにあれはネズミ捕りだ。

子積:だからおかしいんだよ。じゃあなんで俺たちがアレに引っかかるんだ?

中田:それは…セッティングがうまいんじゃないか?

子積:それにしては最近の被害が多すぎる。

中田:それは子積さんが暴れすぎたって。

子積:それは確かに一理あるんだけど

中田:あるのかよ!

子積:なんか引っかかるんだ。

中田:引っかかるって

子積:ネズミ捕りに捕まる仲間たち。それにこのタイミングに駆除業者。うーーーん

中田:考えすぎじゃない?

子積:そうなのかな

中田:そーだよ子積さん。今は何よりも駆除業者を見つけないと!

子積:うん…そうだな

中田:あっ

子積:どーした?

中田:みつけたよ!!駆除業者!!あのスプレーみたいなの絶対にやばい奴だ!

子積:どうやらそのようだ!よし、じゃあリーダーさん!仲間たちに命令頼むよ!!俺は早速!

中田:分かった。子積さん、囮とはいえ、決して無茶はするなよ。

子積:任せろっちゅーの!!

中田:よし。それでは、諸君…状況を開始する!

【シーン4】

●舞台上には駆除業者、そして隠れるように中田さん。

駆除業者:全く…いいバイト教えてあげるって言われたから入ってみたらネズミ駆除かよ。まぁ自給高いからいいけどさ…

中田:子積さん!そのまま背後から足元を駆け抜けて!

駆除業者:うわっ!!早速出やがったなネズミ野郎!!

中田:スプレーに気をつけて!!

駆除業者:くっそっ!!すばしっこいな!!

中田:俺も今から囮に向かう!そしたらその隙に一斉に駆除業者に襲い掛かれ!

●SE「鼠の声いっぱい」
●中田ハケ、それと同時にネズミの大群が駆除業者の体を這いずり回る。

駆除業者:うわっ!!!きもちわりぃ!!

●駆除業者、手からスプレーを落とし、ネズミ捕りにくっつけられてしまい道具が使えなくなる。

駆除業者:もうなんだよ!!服の中にも入ってきやがって!!!こんなにネズミがいるなんて聞いてねぇーーよ!!ちくしょう!!あぁーーーーーーーーー辞めてやるこんなバイト!!!!

●駆除業者ハケ、そして中田と子積、再び入り。

子積:作戦!!

中田:大成功!!!

子積・中田:いえーーーーーーい!!

【シーン5】

●巣に戻り、打ち上げをするネズミ達

子積:まさかあんなにうまくいくとは思わなかったな。

中田:こんな簡単に追い払えるなんてさ〜人間も大したことないね

子積:ただまだ安心はできない!今日は俺たちの帝国を作り上げるその第一歩なのだ!

中田:おぉ!!いいこと言うね!あっ、そーだ!さっき仲間たちが持ってきたチーズがあるんだよ〜とりあえずはそれで乾杯しようぜ?

子積:そんな大量のチーズどうしたんだ?

中田:さっきのどさくさに紛れて仲間たちが拾ってきたんだよ!

子積:そうなのか。

中田:だからさ、今日はとりあえず、ぱーっといこうよ中田さん!

子積:まぁ…今日くらいはいいか!!

中田:よっしゃ!!じゃあ、リーダーお願いしやす!

子積:えーーー…今日という日を生き残った諸君。実にすばらしい働きぶりだった!本当にご苦労!今回の結果に満足することなく、引き続き我々の…

中田:あーーーーフライングしてたべるなよ!そこ!!

子積:おいおい、折角いいところだったのに…

●他のネズミ達がフライングしてチーズを食べ始める。
●SE「鼠の声いっぱい」

中田:おいっ!!なんかチーズ食ったやつらの様子がおかしいぞ!

子積:狂ったようにチーズを食ってる…

●SE「鼠の声いっぱい」

中田:これって…

子積:精神に異常をきたしているとしか思えない!誰かそいつらを止めてくれ!!

中田:どーなってるんだよ!これ!

子積:もしかして、このチーズの中にそれを引き起こす薬が入ってたってことか。

中田:え…それじゃあ、もしかして、さっき言ってた…

子積:あぁ。

中田:ネズミ捕りにかかる仲間が増えたのって、このチーズのせい?

子積:あくまでも推測だが。

中田:……

子積:これは早急に対応しなくちゃならない。俺たちの食物すべてに薬が入っているかもしれないからだ。

中田:一体どうやって!?

子積:……

中田:子積さん。

子積:だめだ、危険だ。オレ一人で行く。

中田:こーいう時だけ格好つけないで。おれも囮になると言ったはずだよ。

子積:中田さん…

中田:俺たちの信条第8項『腹が減っても食い意地は張るな。』でも……“仲間の為に命張る”くらいしないとね。

子積:格好良すぎですよ、中田さん。

中田:何か考えがあるんでしょ?じゃあさっさと行きましょう。

子積:そうだな。

●子積、中田ハケ

【シーン6】

●従業員二人、作業をしている

従業員1:さっきの話なんだけど…。

従業員2:さっきの?

従業員1:ほら、駆除業者が従業員になりすましてるってはなし。

従業員2:ああ、それっすか。

従業員1:当ててみる?

従業員2:面白いですね。

従業員1:って言っても、私は見当ついてるのよね、これ。

従業員2:え、本当ですか。どうして見当ついたんですか?

従業員1:んー、女の勘、ってことにしておこうかしら。

従業員2:ん?

従業員1:ううん、気にしないで。

従業員2:でも、そうですね…。

●工場長と駆除業者が会話をしながら横切る

従業員2:小井原さんとか、最近入ってきて、なんかちょっと怪しいですよね。

従業員1:おお!

従業員2:おお!

従業員1:なかなかいい線いってると思うわ。

従業員2:いよっしゃ!

従業員1:でも、不正解かな。

従業員2:えー、違ったっすか。

従業員1:うーん、半分くらいかな?

従業員2:なにがですか?

従業員1:ひ・み・つ。

従業員2:あ、気になるやつだ。

従業員1:ふっふっふー。

従業員2:もう、自分から仕掛けといてー。

従業員1:秘密のある女は、魅力的なのだ。

従業員2:くっそー。ネズミ好きの貴婦人めー。

従業員1:んー、ネズミは好きってわけじゃないのよのよ。

従業員2:ん、でも、こっそりチーズじゃないですか。

従業員1:それは、彼らがかわいいからだし、何より噛まれたことないからかな。

従業員2:噛まれたこと?

従業員1:私、噛まれるとダメなのよね。それで犬も駄目になっちゃった。

従業員2:えー、もったいない。

従業員1:滅べばいいのに、犬、滅べばいいのに。

従業員2:まっくろっ、こっこっろっ、まっくろっ!

●子積、中田イリ、従業員二人は楽しそうに会話を続けている

子積:見つけた。

中田:あの二人かい、子積さん。

子積:殺るのは一人だ、中田さん。

中田:ターゲットは?

子積:チーザー。

中田:ヤァ。

子積:…。

中田:じゃあ俺は、ターゲットから隣のデカいのを引き離せばいいんだな。

子積:ごめんね、中田さん。

中田:任せろっちゅーの。要はタイミングだ。本物のデコイってやつを見せてやる。

子積:ありがとう。

中田:でも、子積さん。

子積:ん?

中田:ターゲットとタイマンになったところで、どうする?我々の武器である圧倒的な数力も、ヤク入りチーズに潰された。死にに行くようなもんだぞ。

子積:…潰すよ。

中田:え?

子積:あのチーズの元を断たないと、全ての鼠が死んでしまう。俺たちの夢の国なんて、あったもんじゃない。

中田:…。

子積:俺は、リーダーだ。

中田:…。

子積:追い詰められた鼠は、猫をもだって噛み殺すってのを奴らに思い知らせてやる。

中田:…はっ。

子積:よし、中田さんのタイミングで行こう。

中田:もう、昔のきみではないんだな…。

子積:いいかい?

中田:おう。

子積:……。

中田:……。(二人、息をひそめる)

●工場長と駆除業者が会話をしながら入ってくる

中田:…GO!!

●中田ハケ、従業員2のまわりを鼠が走る

工場長:んなっ、ネズミだっ!

駆除業者、従業員1・2:え?

工場長:ほらっ、下っ!

従業員2:んわっ!

工場長:とうりゃ!

●工場長、中田にとびかかるが避けられる

工場長:何をしとる! 捕まえんか!

従業員2:え、あ、はい!

工場長:お前もやらんかっ! 何のために高い金を払っとるんだ!

駆逐業者:え?う、うす!

●工場長・従業員2・駆逐業者、ドタバタする。従業員1は端に避難している

工場長:あ、こら、待てぇ!

従業員2:はあ、はあ!

駆逐業者:くっそー、何で俺が!

●工場長・従業員2・駆逐業者、中田を追ってハケ

従業員1:…。

子積:…あんただろ。

従業員1:あら、また鼠だわ。

子積:俺たちに出来損ないのチーズをあげるふりをして、薬入りのチーズを与えてたのは!

従業員1:この子、例の頭の良い子じゃないかしら?

子積:そのチーズで俺たちの精神を侵し、自らトラップに嵌るように仕向けたんだ。

従業員1:そうだ、さっきのチーズ。

子積:お前のせいで!

従業員1:かわいいね、ほら、お食べよ。

子積:お前のせいで、どれだけの仲間が地獄にっ!

従業員1:…毒なんて、入ってないよ。

子積:……。

従業員1:……。

子積:……。

●子積、従業員1の手に持つチーズに近づく

従業員1:…ほら、いい子。

子積:……。

●子積、従業員1の指に噛みつく

従業員1:うぇあああああああああああああああああああああああああああああ!

●子積、吹き飛ばされる

従業員1:うえっうえっ、っつう、んあぁ、クソがぁ! か、噛みっ、死ねクソ野郎がぁぁああああああああああああああ!

●従業員1、妙なことを叫びながら、身の回りの物を手当たり次第に振り回す(投げつける)。
子積、吹き飛ばされて壁にぶち当たると、一目散に逃げ出す。
子積ハケ、従業員1はずっと暴れまわる

【シーン7】

●中田入り。

中田:なんとか、撒いたか…。毎度のことだが、しつこい奴らだな。……子積さん、生きてるかな。まあ、やすやすと死ぬような鼠じゃねえな、俺らのリーダーはよ。とりあえず、根城に戻って…ん?

●中田、動こうとするが足が動かない。下を見ると粘着シートが。

全ての音が消える。無音。
中田、もがけばもがくほど、粘着シートにとらわれる。
とらわれながら、自分が入ってきた方の舞台袖を見る。何かが見ている。
全ての感情が一度に訪れたような顔をしながら、舞台袖に手を伸ばす。
中田、力尽きる。

【シーン8】

●中田、力尽きた体勢で舞台中央に。その周りには、今までに死んでいった鼠たちが倒れている。

●子積入り

子積:中田さん!中田さん、良かった、無事だったんだね。…。やったよ、思いっきり噛みついてやった。あれじゃ、当分は出てこられないさ。そのうちに次の手を考えなくちゃ。次の手を…。…。ねえ、中田さん。中田さん……。…っ…、っ…あ…、……っえ、あえ…っ…?

●子積、頭を押さえてしゃがみ込む

●子積、だんだんと呼吸が激しくなる、激しくなる。
それに呼応するように、死体たちがピクリと動く。雑音がひどい。
だんだんと呼吸のリズムに合わせて、死体たちが立ちあがっていく。
最後に中田も立ちあがり、死体たちはしゃがみ込んでいる子積を、操り人形のように立ち上がらせる。
子積、声にならない叫び。
そして死体を率いているように、死体に身を任せているようにハケ。

【シーン9】

●従業員2が舞台中央でしゃがんでいる。遠くでは声が聞こえる

従業員1:あ、ねずみだ!

駆除業者:ねずみだー!

工場長:ねずみだぞ!

従業員1:ねずみがでた!

駆除業者:ねずみだぞ、ねずみ!

工場長:おい、ねずみだってよ!

従業員1:ねずみだ!

駆除業者:ねずみだ!

工場長:ねずみだ!

●子積・死体一同イリ

従業員2:ねずみだ。

子積:…。

従業員2:まだいたんだ。

子積:…何でだ。

従業員2:ああ、こいつ、賢い奴か。チーズ食べる?

子積:なあ、何でだ。

従業員2:内堀さん、怪我しちゃったんだぞ。ほら、指。

子積:何でまだ終わらない!

従業員2:あんなに可愛がられてたのに噛むなんてな。

子積:…。

従業員2:小井原さんも可哀相にね。彼は、アルバイトなんだよ。

子積:俺にこれ以上どうしろって言うんだ。

従業員2:こんなに頭の良い鼠がいたんじゃ、上手くいかないよ。

子積:…どうやったら終わるんだ。

従業員2:先輩として、上手にフォローできてたと思ったんだけどなぁ。

子積:聞いても無駄か…。

従業員2:彼、やめちゃうって。

子積:人間の言葉なんて分からないんだ。

従業員2:やっぱり、薬入りのチーズっていうのが回りくどかったのかなぁ。

子積:…!

従業員2:彼のトラップを上手く生かせてたとは思うんだけど。

●子積の呼吸がだんだんと、浅く激しくなってくる。死体も呼応して激しく揺れ始める。

子積:はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…。

従業員2:まあ、でも実際トラップにはかなりの数の鼠が嵌ってたし。

子積:はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…。

従業員2:効果はあったよね。

子積:はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…。

従業員2:今日でここも最後かぁ。

子積:はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…。

従業員2:でも、君と同じようにすばしっこい奴も駆除できたし。

子積:はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…。

従業員2:それに…。

子積:うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

●子積、従業員2に殴りかかろうとするが、足が動かない。

一気に現実に引き戻される。
死体、その場に崩れ落ちる。

従業員2:最後に君を駆除できて良かった。

●子積、恐怖の感情に飲まれる。暗転。


END

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