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女子力

「紗良さーん、すみません!
 あの棚のグラスを取って貰えますか?」
「OK。
 はい、どうぞ。」

「有難うございます!
 急ぎで必要なのですが、高い所に有ってなかなか取れなかったので、助かりました。」
「いえいえー。」

背が高い私は、バイト先で何かと重宝されている。
私は子供の頃から背が高かった。
父も母も兄も高身長の為、完全に遺伝だろう。
本当の身長は174cmだが、誰かから聞かれたら、172cmと答える様にしている。
ちょっとした身長詐称だ。

今でこそ
「スタイルが良いですね。」
「モデルさんみたいですね。」
「どんな服も格好良く着こなせて、羨ましいです。」

と言って貰える様になったが、子供の頃はデケー女だの、ノッポだの、キリンだの、男の子から散々からかわれた。

恋愛対象から外される事は日常茶飯事。
「紗良ちゃんは美人で高嶺の花だから、男の子は畏れ多くて遠慮しちゃうんだよ。」
と友人から慰められる日々。
バレンタインには女の子からチョコを貰う事が度々有り、何とも言えない複雑な気持ちで受け取っていた。

小柄で、華奢で、守ってあげたくなる様な可愛らしい女の子にいつも憧れていた。
高身長がコンプレックスだったし、今もそうだ。

「あ!
 秀君、私が取るよ!」
高い所に有る段ボールを取ろうとしていた秀君に声をかけた。
小柄な秀君は私よりも3か月後に入って来た。
テキパキとしていて気が利き、明るいので、シフトが重なると少し嬉しい。

「大丈夫です。
 これ、とても重いんですよ。」
「私は力持ちだから、持てるって。
 代わるよ!」

「駄目です。
 紗良さんは女の子なんですから。
 女の子にこんな重い物を持たせられません。
 俺はチビですが、これ位は取れますし、持てます。」
「そっか、ごめん、余計なお世話だったね。
 何だか嬉しいな。
 女の子とか言って貰っちゃって。
 私は背も高いし、女子力もそんなに高くないし、女性扱いされた事なんて無いからさ。」

段ボールを床に置き、秀君はこう言った。
「紗良さんは女の子らしいですよ。
 俺は女子力って、オシャレとか髪型とか、メイクとかネイルとか、そういう外見的な物じゃないと思っています。
 
華やかなキラキラ女子が、女子力が高いとは思わないんですよね。」
「そうなの?」

気遣いとか謙虚さとか、芯の強さとか立ち居振る舞い。
 女子力って、そういう内面的な物だと思っています。
 
何を女子力と捉えるかは人それぞれですが、俺から見たら、紗良さんは女子力が凄く高いですよ!」

*****

「男の人に求める譲れない条件は?
 私は車の運転の上手さ!
 私がとても下手だから!」

「顔かな。」
「身長!」
「将来性、稼ぐ力。」
「煙草を吸わない。」
「お金、でもケチは嫌だな。」

「紗良は?」
「そうだなぁ。
 私を女性扱いしてくれる、かな。」


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