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【SS】巡り合いの季節<春>(2012/06/22 21:54)

 出会いは何かと聞かれたら、運命だと答えるだろう――

 それほどまでに、私と彼女が知り合いに至るまでの半年間、奇跡のような偶然が度重なったものだった。


 始まりは、春の日差しが心地良い、職場近くの広場でのことだった。
 ベンチに腰掛け本を開き、珍しく束の間の休憩を謳歌していた時。いつもなら、視線はあれど話かけられる事は滅多に無いのだが……その日は珍しく声を掛ける者があった。

「すみません、隣いいですか?」

 ふと顔を上げると、年若い女性が私を窺い見ていた。
 何気なく周りを見渡せば、なるほどどこも満席のようだった――

「ええ、どうぞ」

 やや右に詰めて座り直し、空いた場所を彼女に勧めた。ありがとうございますと微笑んだ彼女は、私の左隣に腰掛けると、手にしていたランチボックスを広げ始める。

(おや……)

 明らかに手製の弁当を食べ始める彼女を見て、若いのに珍しいなと感心していた。


 最近の子は、あまり自炊はしないと思っていた――

 職場では、昼食ともなれば男女問わず若者から年長者まで、食堂を利用する者や外に食べに行く者がほとんどだ。出前を取る者と弁当を持参した者だけが席に残る。
 その中には愛妻弁当なるものを食している上司や同僚もいるにはいる……しかし贔屓目に見ても羨ましいとは思えない、質素倹約を現したような物にどうこう言うのも難しく、自然と周囲の者がその話題に触れなくなってから随分と久しい。
 わざわざ弁当をこしらえて、尚且つそれを外で食すというだけで物珍しい光景だが……若い女性が1人きりで食事をするというのは酷く侘びしいような、稀な現象に思えた。

 それは、女性というのはどうしても、単独より複数での行動を好み、休み時間ともなればおしゃべりに花を咲かせるのが常であると感じていたせいだろう――


(まぁ、どこにでも例外というのは在るものだけどね……)


 かく言う私も、世間一般の会社員とは考え方が多少ズレているらしく。あるいは真面目すぎるのが悪目立ちしていると言うべきだろうか……兎に角そういう意味である種の「例外」という枠に周囲から分類されていることは自覚していた。

(誠実であることが悪いことだとは思わないけれどね……)

 そのせいか懇意にしている者が極端に少ないことを、ほんの少し淋しく思うことも無きにしも非ず――

 そんなことを考えていたせいか、思わずふっと吐息が漏れる。
すると思いのほか大きな溜め息となって自分の耳に返ってきたことに僅かに驚き、ふとその原因に思い至ってそっと隣を窺い見たのだった。

 片手に箸を、片手に弁当箱を抱えて、ぼんやりと空を見つめている隣の女性。私の存在などスッカリ忘れてしまっているのだろうか……ふぅ、と再び大きな溜め息を零すと、目線を落とし食事を再開する。
 しかし数十秒もしない内に、動きを止め、考え込んだような沈黙の後、再び大きな溜め息を吐くのだった――

(なにか、悩んでいるみたいだが……)

 いわゆる五月病というやつだろうか?
 それにしては、些か時期が早すぎるような気もしないでもない。そもそも隣の女性は確かに若いが、新入社員というには風格が大人びているように思えた。

 まだ半分も食べていないのに片付け始め、席を立ち、お邪魔しましたと言い置いて去って行く後ろ姿を眺めながら……なんとも不思議な虚脱感のようなものが、残像のようにその日は残っていたのを覚えている――

 通りすがりに僅かな時間、たまたま席を共にしただけの、見ず知らずの女性について……何故そんなにも考えを巡らせてしまっていたのか。
 今思えば、とても不思議で不自然で。普段の自分なら有り得ないような事柄だけに、やはり運命だったのだろうと思い至ってしまう。

 そこから何度となく重なる偶然――それらが私に「確信」というものを抱かせた。


(驚くことに、彼女の職場と私の職場は2km以上も離れていたのだが……)

 彼女の名前だけでなく、彼女の取る不思議な行動……それから彼女自身について知っていく内に、自然と惹かれていったのは、私だけではなかったね――


ココロの吐き溜めな、掃き溜め倉庫(時代遅れなガラケー)サイトから……面倒でも諦めずにコツコツと引っ越した甲斐がありました!! と、言えるように頑張ります(´;ω;`)ウゥゥ