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『届きますやうに。』

丘のうへの鐘が遠鳴りする真昼間の静寂、
その音が躓いたあなたの膝の疵口に届きますやうに。
もう歩かなくてもいいのです。
そこらの野石でほんのわずか休んではいかがでせう。

窓硝子のやうに透き通つた感情に、
爪で何度も瑕を付けやうと試みるのですが、
陽光のまぶしさに負けた私は、
瑕の有無を確認する間もなく眠りに落るのです。

真昼間は夢の前では闇に沁み込み、
私だけの舞台上には主人のゐないマイクスタンドが、
出力のしない私の言葉を待ち続けてゐるのです。
「私の言葉は腐つた未完」
それは拡がり繋がり観客を伝ひ、
完璧な演出は無人のカーテンコールの中でも、
ただの無情な完成を遂げるのでせう。

だからスポツトライトなど、月灯りで充分なのです。
星々だけではすこし心許ないけれど、
それはそれで、目に優しい演目になるのでせうね。
薄明かりならきつとあなたを見つけられると思ふので。

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