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「僕は貴方の…」


4年程前、喫茶店に勤めていた、一人の従業員は接客業が初めてでまだ青さが残る子犬のような懐つっこさを持つ男の子、次第に立派に仕事をこなすようになってそれを「よく頑張ってくれてるなあ」なんて見てるのが僕だった、人手が足りず「友達とかで働きたい子いない?」と猫の手でもいいやくらいの気持ちで聞いた、彼が連れてきたのはこれまた接客業が初めて、そしてなにより人見知りがとにかく激しい子だった。

その子は高い背丈を感じさせないほどに背中を丸めていた、「酷い猫背だね」なんて笑っていた、真面目で手が早くてその分体力の消耗も激しくて数ある仕事をこなしはするが自分で設けてしまう休憩がはやく、燃費が人より早い。一生懸命という字をバラバラにすると「一つの所に命を懸ける」漢字は違えどそういう意味合いを持っていると思う、そんなことを考えながら「君は一生懸命だね」とまた笑う。

その子が来て長い時間も経たないまま、僕はその店を後にした、古巣とはちょくちょく会ったり話したりSNSは繋がっていたり、背の高い男の子が僕のアカウントをフォローしてくれた、すぐにわかったんだよ。

前々から子犬のような彼から聞いていたんだ
「あいつの絵はうまいんです!!」その言葉に興味津々な僕は
「何か描いて!」なんて最低なパワハラをしてしまったんだよ、それがどれだけ残酷なことかも想像せず、アーティストは自分のタイミングが全てだってのが僕の持っているアーティスト像。だから上司からそんな圧をかけられた君はたまったものではないよね、だからその時見れなかった絵が、その子の名前のアカウントに載っていた、君が描く絵が、友達を介して聞いた言葉を裏付けるくらいにとても素晴らしい物だったんだ。

君の名前がフォローしてくれたと
載っている写真を見たとき
ストーリーでステッカー作ったと知ったとき

声をかけたいとおもうのは、ごく自然なことだと思ったんだよ。何年ぶりかの邂逅は君の描いたものだったけど、僕は痛く感動した。

「販売してるの?」
「差し上げますよ!」
「そんなの悪いよ」
「届いたら連絡します!」
「じゃあ珈琲飲みに行こう」

久しぶりに会った君は、高い背丈に丸い背中。

「変わらないね」と思わず吹き出してしまった。

珈琲を飲みながら空いた時間のお互いをお話しした、あの頃はよかったと爺臭くなった、そっかあの時の僕が今の君の年齢なんだ、自ずと僕はもっと歳をくったんだね、当時の自分なんて目も当てれないくらい未熟な者だった、躍起になって技術も知識もおぼつかない周りに人がいないと何もできないって自分の事を卑下している。

「僕は充分すごいとおもってましたよ」
…今、なんて?
「美味しいもの食べさせてくれてありがとうございました、また食わせてください」
ううん、ありがとうは俺の言葉だよ
「僕は貴方のファンです」

身近にいた優しい言葉をかけてくれる青年は若者から大人になっていた。
「そうだ、僕まだ緊張してるんであいつ呼んでもいいですか?」
もう一人の子を誘うと言った、
「うん、もちろんだよ」

二人が並ぶとまた思い出す、
あの頃がむしゃらに着いてきてくれて、何をするって言っても、嫌な顔せず「行きます」って言葉を元気でごり押してくれる二人の後輩、大人になってそんな顔はどこかに置いてきたかな、なんて杞憂で僕が珈琲を飲みに行く?って聞いたら

「行きます」なんて屈託のない笑顔が変わらない。2人で仕事するんだって?泣かせんなよ、笑って泣いて胸は熱くなった。あの頃、救われていた僕は変わらず今も救われてるんだね。

ありがとう。


貰ったステッカー

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