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忘れられない人のこと

過去の恋愛とか、本当にどうでもいいし
大抵 次の恋の頃にはもう忘れているが、

わたしには唯一忘れられない人がいる。


初恋の相手のこと。



忘れられない理由はきっと、直接会ったことがないから。



「あの人」のすべては、わたしの中での想像で片付いた。


あの人の本当のところを知る前に、
連絡がぱったりなくなったのだ。

だからわたしが忘れられないと思うあの記憶たちは、
すべてわたしの幻想であり、夢なのかもしれない



わたしの初恋は、SNS上の相手である。


今となってはマッチングアプリ等、
画面の向こうの誰かと繋がり、
好きになるのは一般的になりつつある。


しかしわたしの初恋は2010年、小6のときであり、iPhone4が発売されたばかりで
LINEなどもまだ普及されていなかった。


勿論マッチングアプリなどの存在を
当時12歳のわたしが知るわけもなく

「猫を積んで倒れたら負け」がルールの、
オンラインゲームのメッセージ機能(匿名)で
知り合った相手だった記憶がある。


うーん。もう12年も昔の話であまり覚えていない。

ゲームの結果に対してコメントをしたり、
コメントをする為のその機能で、
お互いの日々をひと言だけ、送りあう。

なんにも知らない相手のこと。
どこに惹かれたとかわからない。
文字だけの繋がりだった。

その人のことがとっても好きだった。

それは幼いながら、しっかりと抱いた感情だった。



その人は、わたしの2つ上のひとで
東京都の練馬区に住んでいた。
部活はサッカーで、習い事は水泳をしていた。


プロフィールのアイコンはメガネをかけたお兄さんだったけれど、あれは多分拾い画だろうと思う。

ボカロが好きな人だった。


SNSに慣れていて、すぐにアカウントを複製したがる人だった。だからアカウントをたくさん持っていた。

わたしのことを好きでいてくれたのかは、未だに不明で


猫をつむゲームから、オンラインアバターゲームへ移行したわたしたちは、バーチャルの世界で会うようになった。

その頃にはLINEもあったと思う。

でも、お互い干渉せず、ずっとオンライン上の関係だった。

わたしが高校二年生になった秋の頃
涼しい風が「もう寒い」と感じるようになった季節に

「○○(わたし)のことは本当に大切だよ。
でも俺じゃない方がいいと思う。」

と、オンラインのメッセージ機能で言われた。
最低な矛盾の矢を平気で放つひどい人だった。


いつか、いつか会えると思っていた。
声くらい、聴けると思っていた

現実世界のことは全く教えてくれなかったけど、
彼女もきっといないと自分で自分を納得させていた。

途切れた。
それからもう返事が来ることは無かった。


おわった。
終わってしまった。

枯れてしまった。わたしの初恋。


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わたしは練馬区に行ったことがない。

本当は、突然SNSから消えた理由を知りたかったし
わたしが何か気に障ることを言ったのか聞きたかった。

それを聞くために素性も知らないその人に会いに練馬区まで行こうとしたこともあった。

練馬駅で待てばたまたま現れてくれるだろうとか、少女漫画のような浅はかな展開を期待したこともあった。


父親の車のナビで、練馬区まで飛んでみる。

「としまえん」という字がでかでかとあって、

「ああ、あの人の地元にはとしまえんというものがあるのか」などと思ったりした。

SNSの繋がりが無くなってから、会える希望もなくなり
別にそれでもいいか〜と思い始めた頃、
としまえんが閉園するというニュースをみた。

「そういえば」と何年ぶりかにあの人の存在を思い出した。

わたしが大学生の頃だったと思う。

行こうと思えば練馬区なんていつでも行けたし、
実際、月に2度のペースで東京には行っていた。
でも、頑なに練馬区だけは行かなかった。

なぜだか理由はわからない。
行ったら負けとか思っているわけでもない。

ただ、あの思い出は幻想だったのだと、
自分のなかで終止符を打ったから
これ以上自分自身を混乱させたくなかった。

そして、会えるかもしれないという期待を自分自身に持たせたくなかった。

━━━━━━━


20代で得た知見。

P233、157項の『サッド・バラードの世界』



触れられなかった彼の存在に
心残りがあるわけではないけれど、

触れたらどんな感じだっただろうか、と
ずっと不思議に思っている。


SNSが出会いでなければ、今頃どうだっただろうか。

結果的に別れていたとしても、
あの人のことをもっと知れていたのではないかな。

少なくとも、本名くらいは。


SNSのせいで、あの時話した会話もなくなって
『サ終』のせいで、初めて繋がったアプリが消えた。
彼のオンラインゲームのページに飛んでみる。

「このユーザーは退会しました。」



SNSは、なんにも残らない。

その経験からわたしはSNSという媒体を信じることをやめた。

大切な人には手紙を書こうと思った。

SNSは、わたしの中であまりにも脆すぎる。




東京都練馬区。

あの地には行けるけれど敢えて行かない。

それでもう永遠にしてしまいたい。
完結してしまいたい。


最後の記憶。
あの人は心臓が弱いと言っていた。

だから手術をするから、もう連絡とれないかも。と。

わたしから離れる口実にしてはあまりにもダサくて
わかり易い嘘をつく人だった。

実際は、なんの前触れもなく消えた。

呆気なかった。

正直、心の整理をするまでに8年程かかった。



もう好きではないから、心臓が弱い話も嘘でいいから

どうか幸せでいてほしい。


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