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60「詩」キリエ-2

人を傷つけないように言葉を選んできた
それでも思いがうまく伝わらない
酷く人を傷つけてしまうことがある
取り返しのつかない記憶がふと蘇ると
居ても立っても居られなくなって
この世から消えてなくなりたくなる
何億という条件が揃ってやっと
産まれてきた大切な命だと知っていても
どうしようもなく
消えてしまいたくなることがある

「その時の男の瞳を忘れることができない
みすぼらしい男に
なにひとつ奇跡など起こせなかった
ただ怯えた犬の目をして
人間を憐れむことしかできなかった
憐れみは
人間の汚れた部分にただ
静かに降り積もり
汚れた部分を包んだ
包まれた汚れが
そのままのかたちで天に昇った
男にはそれしか出来なかった」


私の嫌いな自分が
ずぶ濡れになって記憶の中に立っている


「あなたを許します」


ひとつのことばによって
生きてみようと歩き出す人間がいる
みんな大切なものが違うのだ
それでも
やっぱり人間にとって
いちばん大切なものがあるような気がする

ずぶ濡れの自分から落ちた雫が地面に滴り
やがて消えていくのを
その男が見ている
憐れみの眼差しで共に悲しんで見ている

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