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第21橋 ニライカナイ橋(沖縄県) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


理想郷へと続く
愛おしき橋

 この連載では数多くの橋を紹介してきたが、名前のユニークさでランキング付けするなら堂々1位に輝くのは「ニライカナイ橋」だろう。カタカナなのが沖縄らしい。にらいかない、という音の響きからして素敵だ。

 ニライカナイとは、沖縄地方に古くから伝わる、海の彼方にあるとされる理想郷のことだ。神々が暮らす地であり、死者の魂が向かう先でもある。ちなみに奄美にも似たような伝承があって、こちらは「ネリヤカネヤ」と呼ばれる。

 沖縄本島には絶景として名高い橋がいくつかあるが、あえてニライカナイ橋を推すのは、もちろん名前が気に入っているからという理由だけではない。昔まだ沖縄に通い始めたばかりの頃、知らないで通りかかったら、魅了されてしまったのだ。以来、ことあるごとに再訪している。いわゆる、ひと目ぼれである。

 名前だけでなく、造形からして特徴的だ。沖縄によくある、海の上を横断するタイプの絶景橋とは一味違う。高低差のあるプチループ状の橋だ。青い海へと一直線に伸びる道が、急旋回するようにぐるっと折り返している。実はこの橋、正確にはニライ橋とカナイ橋の二つが連なったものらしい。

 橋のそばには「ニライカナイへの道」という看板が出ている。なんとも心躍る文言なのだ。伝承通りニライカナイが海の向こうの理想郷なのだとすると、この橋はまさにニライカナイへと続く道のように思えてくる。

ニライカナイへの道
「ニライカナイへの道」にそそられる。この看板横の小道を進むと展望台だ


 橋の山側入口付近にトンネルがあって、その上が展望台になっている。自衛隊基地のフェンス脇の小道を進んだ先にあって、場所は少しわかりにくい。沖縄の観光地の中でも、知る人ぞ知るスポットという感じだろう。

 展望台からは橋の全景を眼下にできる。やはり、晴れた日中に訪れたい。南の島の青い空と海がドーンと広がる中、なだらかな曲線を描く橋のシルエットが存在感を放つ。目にしたなら誰しもきっと写真に撮りたくなるような美景である。

沖縄のベストビューポイント
何度見てもため息が出る。大好きな沖縄でマイベストビューのひとつ


 橋が位置するのは沖縄本島南部の、南城市だ。那覇市内からは車で40分ぐらい。

 沖縄へ来る旅行者は、那覇からは北上するケースが多いのだと聞いたことがある。アメリカンビレッジのある北谷や、リゾートホテルが立ち並ぶ恩納村、さらには美ら海水族館など、主要スポットは基本的に北部にある。翻って南部となると、観光客的な視点で見ると比較的地味な印象は否めない。

 しかし、個人的にはドライブするなら南部がイチオシである。那覇から出発し、海岸線を中心にぐるっと一周して那覇へ戻ってくる。那覇市内のホテルに泊まりながら、日帰りでドライブ旅が楽しめる。ニライカナイ橋は、そんな沖縄南部ドライブコースの途中に位置するのだ。

トンネルを抜けた先が橋だ。前方に海が見えてきてテンションが上がる
トンネルを抜けた先が橋だ。前方に海が見えてきてテンションが上がる
橋の上には片側だけ歩道もある。しかし、歩いている人はいない
橋の上には片側だけ歩道もある。しかし、歩いている人はいない
橋の途中に設置されていたオブジェも気になった


 ほかの見どころとしては、たとえば橋のすぐ近くに「斎場御嶽(せーふぁうたき)」がある。御嶽というのは、沖縄に伝わる聖地の総称。斎場御嶽は琉球王国最高の聖地で、世界遺産にも登録されている。

 今回の橋旅では、久々に斎場御嶽にも立ち寄った。何年ぶりかもう覚えていないほど昔に来て以来なのだが、当時から大きく変化した部分があった。斎場御嶽の代名詞的存在ともいえる三角岩が、立入禁止になっていたのだ。奥には拝所があるのだが、柵が立てられ入れないようになっている。

 「コロナ禍を機に入れなくなりました。密を避けるためです。ただ、コロナ以前からも立ち入りを制限しようという声はあったんですよ。ここは神聖な場所なので」

 近くにいたボランティアガイドさんに聞くと、そう教えてくれた。コロナをきっかけとして、全国各地で観光地の在り方が改めて問われるようになったが、ここもまさにそのひとつといえるのかもしれない。

斎場御嶽といえばここ。静謐な空間に身を置くと心が洗われる


 ほかにも細かい変更点として、御嶽前の駐車場にも入れなくなっていた。車は少し離れた場所にある「がんじゅう駅・南条」に停めて、そこから徒歩でアクセスする形になったようだ。まあ、歩くのは苦ではないので、それはいい。

がんじゅう駅・南条の先にある「知念岬公園」も定番の景勝地
がんじゅう駅・南条の先にある「知念岬公園」も定番の景勝地


 徒歩だと色々と発見がある。沖縄では珍しいマグロ丼の専門店を見つけたので、フラリと入ってみた。そしてこの選択が正解だった。外からではわからないのだが、店の奥にはテラス席があって、なんとうれしいことに海と、ニライカナイ橋の全景が眺められる特等席となっていた。

奥に見えるのがニライカナイ橋。「RYUKYU」の文字もあって、隠れた撮影スポットかも
奥に見えるのがニライカナイ橋。「RYUKYU」の文字もあって、隠れた撮影スポットかも


 展望台から見下ろす橋の美景ばかりに気を取られがちだが、こうして遠景で向き合うニライカナイ橋もまた新鮮でいい。

 マグロ丼自体もなかなかレベルが高い。丼からあふれるほどマグロが盛り付けられ、上には海ぶどうが乗っている。味噌汁の具がもずくなのもいかにも沖縄だ。オリオンビールをグビッとしたいところだが、車なのでグッと我慢。理想郷へと続くという愛しの橋を遠くに眺めながら、お水で乾杯したのだった。





吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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