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第3橋 珍しい生き物においしいグルメ 岩国はおもしろい! 錦帯橋 後編 (山口県岩国市)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。
渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。
「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。
——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!

第3橋 魅力的な岩国の空港から 一足飛びに錦帯橋へ! 錦帯橋 前編はこちらから


珍しい生き物においしいグルメ
岩国はおもしろい!

 
 岩国は錦帯橋を中心に、見どころがコンパクトにまとまっており観光しやすい街と感じた。ロープウェイ乗り場の手前には吉香公園という気持ちのいい公園があって、歩き疲れたら休憩するのにもちょうどいい。旧制岩国中学校の跡地に作られた公園で、園内には樹齢100年を超える大木なども植えられている。日本の歴史公園百選にも選ばれていると分かって得心した。自然にあふれた公園とはいえ、周囲の城下町的景観にも違和感なく溶け込んでいる。

歴史散歩の休憩に最適な吉香公園。
暑い夏の日に訪れたから、放水が見るからに涼しげで癒された。


 公園内にあるトイレに立ち寄ったら、近くから鳥の鳴き声のようなものが聞こえてきた。なんだろうかと覗いてみると、小屋の中に無数の鵜が飼われていてハッとなった。知らなかったが、ここ岩国では鵜飼も行われているのだそうだ。

吉香公園にある「鵜の里」で鵜に出合う。鵜飼も見たかったなあ。


 鵜飼と聞いて、真っ先に思い浮かんだのが岐阜の風景だ。何年か前に、長良川で行われる鵜飼を観に行ったことがある。かがり火を焚いた小舟で川を下りながら、鵜を巧みに操って鮎を捕る。長い歴史を誇る伝統技術を目の当たりにして、心の底から感動したのを思い出す。

 そういえば錦帯橋の周りの風景は、長良川のそれと酷似している。岐阜でも川の背後に山がそびえ立ち、頂には織田信長の居城・岐阜城が強い存在感を放っている。信長が鵜匠を保護し、鵜飼を初めて見せるためのもの、すなわちショー化したとされるのだが、それはまあ余談である。

 錦帯橋、岩国城のほかには、「岩国シロヘビの館」もおもしろかった。白蛇は岩国名物のひとつで、国の天然記念物に指定されている。

 岩国シロヘビの館はその生態などを紹介するほか、白蛇そのものが飼育・展示されている。真っ白な蛇というのは確かに珍しい。

美しく、神々しい。白蛇を目的に訪れてもいいぐらいの大物だ。


 その外見のインパクトはなかなかのものだ。白蛇といっても、実際には真っ白というわけではない。薄いベージュがかった白色といった感じ。そんな色のせいか、編み目のような体の模様が目を引く。橋のついでに軽い気持ちで立ち寄ったら、そのあまりの美しさに感動してしまった。白蛇は古くから福運金運の神の使いとされているそうだが、実際にこの目にして御利益がありそうな気がした。

 橋というのはそもそも、川だったり海だったりを渡るために架けられるものだ。要するに交通インフラの一種である。しかし本来の目的とは別に、結果的に観光名所にもなり得るところはおもしろいなあとしみじみ思う。

 錦帯橋はまさにそんな存在だ。300年以上も前にここに橋を架けようと考えた人たちは、まさかその橋を一目見ようと全国からたくさんの人がやってくることになるとは想像しなかっただろうなあ。

 フト、そんなことを考えながら帰路につく。再び橋へと歩を進めると、さっきよりも人が増えていた。人がいなかったのは、単に朝が早かったせいかもしれない。山を上って下りて、上って下りて……を五回繰り返す。人の往来があるお陰で、観光地化される前の在りし日の橋の姿がより具体的に想像できて、束の間、江戸時代にタイムトラベルしているような気分になった。

再び橋を渡って帰路につく。二度目なのにやっぱりまた興奮した。


 今回も最後にグルメ情報を書いてしめくくりたい。

 岩国へ来たら食べに行きたい店があった。名前は「いろり山賊」という。どんなお店なのか、説明がちょっと難しい。時代劇のセットのような空間に、幟がはためいている。お祭りの縁日のような雰囲気という喩えも似つかわしい。屋内だけでなく、屋外にもテーブルが並んでいる。巨大なレストランである。

昼食は念願のいろり山賊へ。レンタカーを借りたのは、この店に行きたかったというのも理由だ。


 場所が街中ではなく、山間部というのも特徴的だ。まさに「山賊」が出てきそうな辺鄙なロケーションなのだが、ここだけ異空間で、知らないで通りかかった人が見たら「なんだここは?」となりそうな感じ。地元では有名なお店らしいが、余所者としては物珍しく感じられる。ありそうでなかったお店といえそうだ。

 山賊をテーマにしたこの店の名物メニューが「山賊焼」。串に刺したチキンを炭火で焼いたもので、見るからに豪快な雰囲気だ。これに、「山賊むすび」というこれまたとびきりデカイおにぎりを注文したら、お腹いっぱいになった。

 テーマ・レストランとしてはなかなかユニークないろり山賊。錦帯橋で歴史に触れ、江戸時代気分に浸った流れで訪れるにはうってつけのお店である。

名物メニューのひとつ「山賊焼」。




吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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