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第15橋 けさかけ橋(群馬県) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


階段式の吊り橋
勇気を出して渡ったその先には

 前々から気になっていたが、なかなか行く機会に恵まれなかった足尾銅山へ遂に訪れることができた。場所は栃木県日光市。日光といえば東照宮や中禅寺湖など大物観光地が目白押しだから、埋もれてしまいがちなスポットといえるかもしれない。

 400年もの歴史を持つ、かつての日本一の銅山である。現在は坑内の一部が一般開放され、見学できるようになっている。トロッコに乗って坑内へ突入するなど、洞窟探検しているみたいで楽しいが、人を選ぶ観光スポットかな、というのが正直な感想だ。きっと、鉱石好きにはたまらないのだろうなぁ。

全長約460メートルの薄暗い坑道は、ヒンヤリとしている。
当時の採掘風景を再現した人形がリアルだ。


 ともあれ、足尾銅山についてはまあ、別にいいのだ。その旅の途中で出合ってしまったのだ。とんでもなく魅力的な橋に。そう、本題はここからである。

 橋の名前は「けさかけ橋」。たぶん、そんなに有名な橋ではないと思う。というより、ほとんど知られていない気がする。

 足尾銅山は栃木だったが、橋が位置するのは群馬県みどり市。日光から県境を越えて、群馬に入って割とすぐの場所だ。

 わたらせ渓谷鐵道と平行して続く国道122号を桐生方面へ進み、小中駅のところで県道に逸れる。そうして、ぐんぐん山奥へ分け入っていくと、狭い林道の先にその橋はひっそり佇んでいる。

軽く山歩きしつつ辿り着く。ここからではまだ橋の全貌が見えない。


 近くにはいちおう、車を3〜4台は停められるスペースがあり、そこから徒歩で5分ぐらい。「熊出没注意」の看板にビビリながら歩を進めていくと、石積みの小さなトンネルがあって、そこを抜けた先に赤い欄干がいきなり現れた。

 付近の案内板には「幅1.2メートル、長さ51メートル、傾斜44%」と橋のスペックが説明されている。幅や長さはいいとして……えっ、傾斜? 橋なのに傾斜? と疑問が浮かぶ。

 実はこのけさかけ橋、世にも珍しい階段式の吊り橋なのだ。橋は真っ逆さまに下へと続いている。それゆえ、傾斜44%というわけである。


橋なのに階段、階段なのに橋という摩訶不思議。


 まるで谷底へ降りていくような感覚は新鮮だが、正直、腰が引けた。スキー場で急斜面のゲレンデを下り始めるときのような緊張感。勇気を振り絞って、最初の一歩を踏み出した。

 階段状の橋桁が続くのは、ちょうど橋の真ん中あたりまで。ここまで降りられれば一安心といえるだろうか。そこから先は普通の吊り橋になっている。

 渡り終えると、滝が勢いよく流れているのが見えた。「小中大滝」というらしい。落差96メートル。ストレートに水が落ちるのではなく、途中の岩に当たって流れが分岐していく。滝については詳しくはないが、素人目で見ても立派な滝であることはわかる。

渡り降りたところから撮った方が、橋の全体像がわかりやすい。


 みどり市が公開している観光用アプリで音声ガイド——ナレーターが小倉唯さんだ——が聞けるのだが、それによると、次のように説明されている。

「勇気を出して揺られる吊り橋を渡りきった人だけが幻の絶景スポット小中大滝に辿り着けるのです」

 幻の絶景スポットとは大きく出たな、と感じたが、なるほど、けさかけ橋は、この滝を観に行くために架けられた橋というわけだ。

 静寂に包まれた山中に、滝が流れる音がこだまする。心の邪念を流し落とすかのように、しばしその場に佇み、踵を返した。

「幻の絶景」をこの目に。秋の紅葉も美しいのだとか。


 けさかけ橋という名前は、この地の伝承から由来している。

 その昔、日光へ行く途中の弘法大師がここを訪れたときのこと。地元の人たちを苦しめる悪い和尚がいたので、お経を唱えて反省するよう言い聞かせた。しばらくして戻ってみると、和尚はお経を唱えながら亡くなっていた。弘法大師は申し訳なく思い、和尚がお経を上げていた岩に、自分が身につけていた袈裟をかけてあげたのだという。

 けさかけ橋をあとにしたら、戻って再び国道をフォローしていく。山道を走り抜けた先は桐生市だ。そのまま東京方面へ帰ってもいいが、せっかく来たのだから美味しいものでも食べておきたいという人には、とっておきがあるので最後に紹介したい。

 桐生のご当地グルメ、ひもかわうどんである。四角いスライスチーズのような形状をしていて、表面は生のイカのように白くてツヤがある。食べ方は店によってさまざまだが、個人的にはつけ汁に浸して食べるのがおすすめだ。

 これまた世にも珍しいうどんである。だからこそ、一風変わった橋を渡る旅で食べるには、うってつけの逸品なのだ。

見た目だけでなく、食感や食べ終わったときに得られる満足感も普通のうどんとはちょっと違う。





吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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