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第14橋 東京ゲートブリッジ(東京都) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


スリリングな?渡橋はもちろん
周辺の施設も楽しめる穴場の橋

 思えば、橋を巡る旅をしようと思ったきっかけが、レインボーブリッジを歩いて渡ったことだった。コロナ禍が始まって割とすぐの頃、移動自粛により都内から出ることもままならなくなったときのことだ。近所で旅気分を味わいたくて、改めて東京観光を試みた。

 レインボーブリッジなんて毎日のように目にしていたし、車ではしょっちゅう通っていたが、歩いて渡ったのはそれが初めてで、新鮮な衝撃を受けたことを覚えている。そのときの旅行記、もとい渡橋記は別の著書で記した。

 今回紹介する東京ゲートブリッジは、そのレインボーブリッジ渡橋で味をしめたあと、次に狙いを定めた橋だった。同じく東京湾に位置し、レインボーブリッジからも近い距離にある。開通したのが2012年2月。東京湾に架かる橋の中でもとくに新しい存在といえるだろうか。

 その独特のフォルムから密かに気になっていた。いわゆるトラス橋であるが、橋の上下ともに中央に行くにしたがってスペースが広くなるようにデザインされている。

 見た目からしてユニークで目を引くが、こういう形になっているのには理由がある。まず、羽田空港に近接しているため高さ制限が設けられていること。そして、船舶が航行するために橋の下にも空間が必要であること。ちなみにトラス最上部までの高さは87.8メートル、橋桁までが54.6メートルとなっている。

橋の袂には長い堤防があって、釣り人たちで大賑わいだ。


 橋は大田区城南島と、江東区若洲を結ぶ東京臨海道路に架けられている。訪れる際は、江東区若洲側を目指す方がおすすめだ。橋の袂に若洲海浜公園があって、この公園を拠点に橋を満喫できるからだ。大きな駐車場も用意されていて、都内とはいえ車で行きやすいのも嬉しい。

 若洲海浜公園自体も、とても魅力的なところだ。特に幼児から小学校低学年ぐらいまでの小さな子どもを連れて遊びに行くには最高のお出かけ先だ。お弁当を食べるのにぴったりの広い芝生があって、体を動かせる遊具も充実している。

 場所が辺鄙なせいか、比較的空いているのもいい。都内では穴場的な公園だと思う。

若洲海浜公園は子連れで丸1日楽しめる。弁当とシート持参がおすすめ。


 そして何より魅力的なのが、レンタサイクルが用意され、園内にサイクリングコースが設けられていること。1周約6キロと、それなりに走り甲斐がある。レンタサイクルは大人用だけでなく、子ども用も用意されており、ヘルメットも完備。

 周囲は海に囲まれているから景色はすこぶるいい。潮風を浴びながら、岸壁に沿って自転車を走らせる。東京ゲートブリッジの雄姿を間近に眺めながらサイクリングが楽しめるというわけだ。

 ただし、橋の上を自転車で走ることは禁止されている。というより、そもそも東京ゲートブリッジは徒歩で対岸まで渡ることができない。いや、正確にいえば、渡ることはできるが、渡った先で地上へは降りられないのだ。

 橋の上には歩道部が設けられていて、両岸に設置された昇降タワーと繋がっている。若洲側の昇降タワーは若洲公園内にあって、エレベーターで橋の上に出られる。

 ところが、対岸の昇降タワーは封鎖されていて、歩道部を歩いて対岸まで行ったとしても、回れ右して若洲側まで引き返さなければならない。なんでも、埋め立て地の工事をしている関係で、そのような状況になっているのだとか。もどかしいのだ。

若洲側の昇降タワー。エレベーターで橋の上へ出られる。自転車の乗り入れは不可。


 実際にてくてく歩いて橋を往復してみた。その感想を一言でいうなら「こわかったなー」となる。そう書くと、ちょっぴり恥ずかしいが、正直言って足がすくんだ。ビクビクしながら、おそるおそる歩を進めた。

 実はレインボーブリッジを歩いて渡ったときも、なかなかスリリングだった。風が強く、ビュービュー吹きつける中、すぐ横の車道を巨大なトラックが猛スピードでビュンビュン通り過ぎていく。

 東京ゲートブリッジもまったく同じで、ビュービュー、ビュンビュンなのである。しかもこちらは、レインボーブリッジと違って屋根がない。突風に煽られでもしたら、吹っ飛ばされて橋の下へ真っ逆さまに落ちるのではないかという不安が頭をもたげた。オープンエアの開放感は、裏を返せば危なっかしさともいえる。いやはや、我ながら大げさだなぁ。

高所恐怖症の人は海側を歩くのは試練? かといって、車道側に寄るとトラックが怖い。
橋の上からだと、驚くほどすれすれの高さを飛行機が通過していくことがわかる。
歩道の途中には休憩用のベンチなども設置されている。


 橋の長さは2,618メートル。前述した通り、向こう岸まで行っても地上には降りられず、引き返さなければならない。行きは写真を撮ったりしながらゆっくりと、帰りはサササーッと足早に歩いて往復計45分かかった。

対岸に到着。中央防波堤側の昇降タワーはロープで封鎖されていた。
ここから若洲側を振り返ると、いいアングルの写真が撮れた。



 東京ゲートブリッジを語るうえで、もうひとつ外せない魅力がある。それはずばり、夜景だ。橋には886基のLEDが設置されており、日没後にライトアップされる。月替わりで色が決まっているのも特徴で、クリスマスなど特定の日限定でスペシャル仕様に光り輝いたりもする。

 空気が澄み渡った寒い休日に夜景を撮りに行ってみたら、三脚と大きなカメラを持った同志がたくさんいて驚かされた。都内屈指の夜景撮影スポットといっていいだろう。

 独特のシルエットの橋が、光を帯びて闇夜に浮かび上がるさまは本当に絵になる。完全に日が落ちる前の夕暮れの時間帯がとくに愛おしい。

 水平線が茜色に染まる中、じわりじわりと空の彩度が落ちてゆく。それと反比例するように、橋の輝きが増していく。ときおり、羽田を飛び立ったジェット機のシルエットが天空を横切るのもなんだか旅情を誘う。

撮影時は3月で「若草色」のライトアップだった。
消費電力の約4割を太陽光発電でまかなうなど、環境に配慮されている。


 橋へは車ではなく、公共交通機関でもアクセスできる。最寄りは新木場駅で、本数は少ないものの駅前から若洲海浜公園までバスが出ている。

 また、新木場駅前のロータリーにはドコモ系のシェアサイクルの大規模ステーションがあって、何十台もの自転車が停まっている。筆者もここで自転車を借りて、橋まで行ったことがあるが、道中には自転車専用道路なんかも用意されていて快適だった。




吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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