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第6橋 「佐賀推し」にはたまらない! 旧国鉄佐賀線の上に作られた橋 筑後川昇開橋 前編 (佐賀県/福岡県)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!

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「佐賀推し」にはたまらない!
旧国鉄佐賀線の上に作られた橋

 福岡と佐賀の県境には九州最大の一級河川である筑後川が流れる。今回のお目当てはそこに架かる「筑後川昇開橋」だ。川の対岸は隣の県という立地を想像しただけで、行く前から旅心がくすぐられた。

 橋へは福岡、佐賀のどちらからでもアクセスできる。さて、どちらから行くべきかと瞬間考えて、すぐに結論が出た。やはり、佐賀だろうと。理由は単純で、佐賀が好きだからだ。いや、好きなんてものではないだろう。いわば、「佐賀推し」である。少なくとも、リピーターであることは間違いない。

 九州の中でも最も人口が少なく、面積も狭い佐賀県。旅行先として見ても、九州の中ではどちらかといえば地味なイメージがある(佐賀の人、ゴメンナサイ)。ところが、そんな佐賀県の魅力にどっぷりハマってしまった。

 きっかけは、『ゾンビランドサガ』という佐賀を舞台にしたアニメ作品だった。2019年のことだ。作中に登場する現実の名所を巡る「聖地巡礼」で訪れたら、佐賀っていいところだなと気がついたのだ。海があるし、山もある。イカは美味しいし、有田焼は美しいし、嬉野温泉も最高だ。

 以来、ことあるごとに佐賀を目指すようになった。これを書いているのは2022年6月だが、今年もまだ半年しかたっていないというのに、これで三度目の佐賀旅行である。もはや、佐賀に呼ばれているのではないかと思うほどだ。

思わず撮ってしまった路線バス。車体に書かれた「佐賀市はサガン鳥栖を応援しています。」の一文が心強い。駅前不動産スタジアムへはいつか行ってみたいなぁと思っている。



 旅のスタート地点は佐賀駅だった。駅前でシェアサイクルを借りた。今回はレンタカーではなく、自転車で橋を目指すことにしたのだ。それには理由がある。

 筑後川昇開橋は、瀬高駅(福岡県みやま市)から佐賀駅までを結ぶ旧国鉄佐賀線のルート上に作られた橋だ。佐賀線はすでに廃線となり、橋はそのまま残ったわけだが、ここで注目したいのはかつての佐賀線の線路跡だ。現在はなんとサイクリングロードに生まれ変わっているという。

 その名も「徐福サイクルロード」。「徐福」という名前からして、佐賀好きには刺さるものがある。不老不死の薬を求めて秦から渡来した徐福の伝説がこの地に伝わる。サイクルロードの全長はなんと約5キロもあって、佐賀市内から橋まで一直線に続いている。つまり、この道をひたすら走っていけば、橋に辿り着けるというわけだ。

 さらに都合のいいことに、佐賀県側の橋の袂には「橋の駅」という公共施設があるのだが、そこにシェアサイクルのステーションが設置されている。これが、自転車旅を選択する決め手となった。シェアサイクルというのは従来のレンタサイクルと違って乗り捨てが可能だ。ステーションがあるということは、つまりそこで自転車を返却できることを意味する。

 思いついたのは次のようなコースだった。JR佐賀駅の駅前で自転車を借りて、徐福サイクルロードを走って橋を目指す。そうして橋まで辿り着いたら、そこで自転車を返却。橋を歩いて渡って福岡県側に抜ける。福岡県側では、橋の近くのバス停から西鉄柳川駅行きのバスに乗車する。柳川駅まで行けば、そこからは電車移動も容易い。同じ道を引き返す必要がない、一筆書きのルートは効率が良くて自分好みだ。


ソフトバンク系のシェアサイクル・サービス「ハローサイクリング」が佐賀に進出している。
東京でもたまに利用しているからサービスは既に登録済みで、いつものアプリからそのまま利用可能なのは便利だった。JR佐賀駅南口そばの草場公園前のステーションで借りた。


 実際に走り始めてみると、もうひとつ自転車の優位性に気がついた。佐賀市というところはいわゆる平野部で、土地は平らで空間も広々している。道のアップダウンが少ないから、自転車で走りやすいのだ。

 そんなわけで、いざ橋旅へ出発! なのだが……、いきなり寄り道してしまった。時計を見ると、ちょうどお昼の12時を過ぎたところだった。そう、まずは腹ごしらえなのである。

 佐賀市内でランチとなると、個人的に毎度定番なのが「シシリアン・ライス」だ。ご飯の上に肉とサラダを載せて、マヨネーズをかけた佐賀のご当地メニュー。シャキシャキしたレタスや、みずみずしいトマトが印象に残る。牛丼のような満腹感が得られる一方で、野菜もたっぷり食べられる一品なのだ。

 シシリアン・ライスといえば、レトロな雰囲気の喫茶店「アリユメ」や、県庁にある「さがんれすとらん志乃」が有名だが、いずれも食べたことがあるので、今回は「ホテルグランデはがくれ」に向かった。ホテル内のレストランでシシリアン・ライスが食べられるのだ。スープ付きで990円。この値段で地域の老舗ホテルの優雅な雰囲気も味わえると思えば、コスパは悪くないだろう。

ホテルグランデはがくれは、全国チェーンのビジネスホテルなどとは違った
ローカル感のある雰囲気。
シシリアンライスは1階のレストランで食べられる。


 橋旅ではいつも、先に橋の見学を終えてからグルメへ、というのが流れだ。翻って今回は、逆に食事が先行する形になった。橋の付近にはお店もあまりなさそうなので、食事は街中で済ませた方がいいかなと思ったからだが、この選択は正解だった。

 駅前こそそれなりに栄えているが、駅から離れるにつれ建物がまばらになり、景色はどんどん牧歌的なものへと変わっていく。駅前からちょっと外れると途端に田舎になる——「地方都市あるある」だが、佐賀は殊更その度合いが強いと感じる。ともあれ、それも嫌いじゃない。田畑が広がり、遠くには山並みが望めるこの風景に価値を見出せるのは、普段都会で暮らしているせいだろうか。

 のんびりと自転車のペダルを漕いでいく。車よりも速度が遅い自転車では、流れる景色もまた違って見える。駅から南下していき、佐賀城跡を左折して東進する。そうして信号をいくつか越えて進んだ先で、「徐福サイクルロード」の看板を見つけた。ここを走って行けば橋に辿り着くわけだが、続きは後編で。


佐賀駅から中央大通りをずっと南下していく。
県庁や佐賀城跡へと続く、佐賀のメインストリートだ。今回はパスしたが、通り沿いにある「佐賀バルーンミュージアム」は超おすすめなので、時間があればぜひ立ち寄って。
佐賀城跡の前には、幕末に近代化を推し進めた鍋島直正の像が立つ。
佐賀で偉人といえば、この人なのだろう。
像のすぐそばに駐輪場とトイレを見つけたので小休止……のはずが、そのままフラリと城内へ入ってしまった。
佐賀城内にある「佐賀城本丸歴史館」は城の変遷のほか、幕末維新期を中心とした佐賀の歴史を紹介する施設で、見応えたっぷりなのにもかかわらずなんと入場無料なのが素晴らしい。余談だが、この畳敷きの大広間でゾンビたちによるラップバトルが行われた(アニメの話だ)。




吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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