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全国最中図鑑

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日本を代表する和菓子の一つである「最中」。香ばしいパリパリの皮とともに餡を頬張れば、口の中にふわっと広がる品のよい甘さ。なんとも幸せな気分になるお菓子です。編集スタッフが取材の途…
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#ユニーク

「全国最中図鑑」77 ちんとろ最中(愛知県半田市)

「ちんとろ最中」とはまた変わった名前だが、半田市で毎年春に行われる『ちんとろ祭り』からきているらしい。 『ちんとろ祭り』は、上半田地区の住吉神社境内の池に2隻の「まきわら」の舟を浮かべ、その舟の上で子供三番叟の舞を奉納する。その「まきわら」舟を「ちんとろ」と呼ぶ。「ちんとろ」の名の由来は、舟上にたくさん飾られる提灯が「珍灯籠(ちんとうろう)」であることと、奏でられるお囃子が「チントロ、チントロ・・・」と聞こえるところからきていると言われている。 丸初製菓の「ちんとろ最中」は、

「全国最中図鑑」63 つる柿最中(富山県南砺市)

つる柿もなかは、南砺市福光の特産品・三社柿をあんに使った最中である。 三社柿というのは、一個300g前後もある大粒の渋柿で、赤みを帯びた美しいあめ色が特徴。南砺地方の原産種で、この地方に特徴的な粘土質の土壌でしか育たないという希少な品種だ。実がほど良くしまった絶妙な食感で、さらに、医王山から吹き下ろす医王おろしという西風が柿に独特の甘みを育むともいわれ、干すと抜群に甘みが増す。 森まつ菓子舗の「つる柿最中」は、砂糖漬けした三社柿の干し柿を刻んで白あんに混ぜて炊き上げた「つる柿

「全国最中図鑑」58 茶むすめ (埼玉県狭山市)

「色は静岡、香りは宇治と、味は狭山でとどめさす」と言われる狭山茶の中でも、鮮やかなさみどり色と清純な香りで知られる狭山抹茶『明松』を使ったもなか。『明松』は色・味・香りが飛びやすく、その良さを活かすのはとても難しいという。その繊細な素材を独自の手法で活かしてたっぷりと詰め込んだコクのあるキレイな緑色のあんに、餅で作った香ばしい皮がピッタリとマッチしている。 あんは、この抹茶あんと丹波大納言のつぶあんの2種類。茶壺の形が噛んでも崩れにくく、こぼさずに食べられるのもうれしい。 お

「全国最中図鑑」57 鮎もなか (滋賀県大津市)

別名「香魚」「年魚」とも呼ばれる鮎は、滋賀県の代表的な湖の幸。琵琶湖の鮎は、春になると川に上り上流で大きくなるものと、川に上らず琵琶湖の中で暮らしてあまり大きくならないものとがあり、これはコアユと呼ばれている。コアユの天ぷらはちょっとホロ苦い味で、揚げたては格別の美味しさ。コアユの佃煮を熱々のご飯にのせて食べるのも、滋賀人自慢のふるさとの味である。 この琵琶湖の鮎をもなかに仕立てたのは、琵琶湖・大津で創業91年を迎える老舗の菓子メーカー大忠堂。最中種に「日本一のもち米」といわ

「全国最中図鑑」54 伊予路真珠もなか(愛媛県宇和島市)

1893年に御木本幸吉が半円真珠の養殖に成功して以来、日本の養殖真珠の中心地は三重県と長崎県だった。だが1960年代に宇和海で養殖が始まってからは、またたく間に愛媛県での養殖が盛んになり、74年以降、愛媛は日本一の生産地となった。現在も全国の真珠生産量の約40%を占めている。 中でも、宇和島市から愛南町に広がる宇和海は、その代表的な養殖地となっている。元々宇和海には黒潮が流れ込む温暖で良質な漁場があり、天然のアコヤ貝が数多く生息していたこともその要因だったといわれる。 そんな

「全国最中図鑑」53 狸合戦もなか(徳島県小松島市)

阿波狸合戦は、江戸末期に阿波国で起きたといわれる狸たちの戦争の伝説である。商人に命を助けられた狸が恩返しをすることから始まる物語なのだが、それからが意外に長い話でとても書ききれない。ここでは割愛するが、興味のある方は調べてみていただきたい。 さて、その狸の伝説を、昭和14年に大映の前身である新興キネマが「阿波狸合戦」という題名で映画化し、大ヒットした。そして翌15年にも「続阿波狸合戦」を制作し、またまた大ヒットした。この映画の成功で小松島はすっかり狸の町として有名になり、今で

「全国最中図鑑」52 よーじや謹製 手作り最中(京都府京都市)

京のあぶらとり紙で知られる「よーじや」の歴史は、1904年、舞台化粧道具の行商から三条に店を構えた「国枝商店」に始まる。 大正初期、世間で口腔衛生が注目され始めた頃、初代が歯ブラシの商いを始めた。その頃、歯ブラシは「楊枝(ようじ)」と呼ばれていたことから、人々に「楊枝屋さん」と親しまれるようになり、この愛称を店名に改めたという。 昭和40年、2代目が手描きした、手鏡に京の女性の顔が映っている絵をロゴマークとして採用し、よーじやの全国展開と共に、このおしゃれな「よーじやマーク」

「全国最中図鑑」51 雪ぼうし(北海道江差町)

北海道の代表的な港町・江差で、江戸時代から菓子屋を営んできた五勝手屋。この珍しい店名は、当地にヒノキの伐り出しにきていた南部藩が、五花手地区で豆の栽培に成功し、店の祖先がその豆で菓子を作ったことから名づけられたという。ちなみに五花手という言葉は、アイヌ語で「コカイテ」、波の砕ける場所、という意味だそうである。 その五勝手屋が、冬季のみ限定で販売しているのが「雪ぼうし」。立体的な雪だるま型のモナカで、頭にバケツの雪ぼうしをちょこんと乗せたフォルムが実に愛らしくて、食べるのがため

「全国最中図鑑」49 「庚申最中(さる最中)」(大阪府大阪市)

大阪の四天王寺庚申堂の境内には、三猿堂というお堂がある。庚申信仰では猿が庚申尊の使いとされていて、「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿の木彫りの像が祀られている。「病気に勝る」「魔も去る」との縁起をかついで痛みに効くとも言われ、また、庚申の日に願い事をすると成就するとも言われている。 大正13年から庚申堂前で営業している、日本初の甘納豆専門店「青山甘納豆」で、この逸話にちなんで作られたのが「庚申最中(さる最中)」。 砂糖控えめで素材本来の味を楽しめる甘納豆は絶品で、全国菓子大

「全国最中図鑑」48 とまやの最中(大分県杵築市)

大分県北東部の国東半島の南端にある杵築市は、江戸時代の風情が色濃く残る城下町である。この町の代表的な商家である苫屋は、享保年間(1716〜1736年)に創業した老舗のお茶屋で、お茶一筋に営業を続けること約280年、現在の当主は10代目になる。 白壁瓦ぶき・純木造入母屋造りの本店の建物は明治8(1875)年築で、平成30年に杵築市で初めて国の指定登録有形文化財に指定されている。 その苫屋が、家業のお茶に合う和菓子として作ったのが「とまやの最中」。屋号の苫屋の由来から、草葺き屋根

「全国最中図鑑」44 ひょっとこ最中(宮崎県日向市)

昔、日向の塩見永田という村に「ひょう助」と「おかめ」という夫婦が住んでいた。二人が子宝に恵まれるよう毎日稲荷神社に豆飯を供えていたところ、ある日、神主が空腹に耐えきれずそれをつまみ食いしてしまった。怒ったお稲荷様が、きつねに姿を変えて現れたが、そこにいたおかめの美しさに目を奪われ、おかめの気をひこうと手招きしながら踊り出した。それを見たおかめもつられて踊り出し、亭主のひょう助も一緒に踊り出し、成り行きを伺っていた村の若者たちまでみな踊り出した。 「日向ひょっとこ踊り」は、この

「全国最中図鑑」42 火山桜島もなか(鹿児島県鹿児島市)

鹿児島のシンボル・桜島は、北岳・南岳から成る複合活火山で、年間200万人の観光客が訪れる鹿児島屈指の観光地。今も噴煙を上げ、灰を降らせ続けている世界的にも珍しい火山だ。周囲約50キロ以上、面積約80キロ平方メートルで、名前のとおり元は島だったが、大正3年の大噴火で対岸の大隅半島と地続きになった。 誕生したのは約2万6千年ほど前。日本の火山の中では比較的新しい火山だが、有史以来頻繁に噴火を繰り返してきた。噴火の頻度は数週間に一度のこともあれば1日に2、3回の時もあり、鹿児島のニ

「全国最中図鑑」41 とんち彦一もなか(熊本県八代市)

熊本県八代地方には、昔から伝わる「彦一とんち話」という民話がある。 彦一は、一休、吉四六と並んで有名なとんち話の主人公だ。誰がモデルなのか、実在の人物なのか、などは不詳だが、設定は肥後国熊本藩八代城の城下町の長屋暮らしの下級武士で、定職は持たず、農作業や傘職人などの賃仕事をしながら生計を立てていたと言われている。暮らしは当然貧しかったが、苦しい生活の中でも明るさを失わず、近所の人々相手に、常にとんちを働かせた笑いを振りまいて貧乏な仲間たちを元気づけた。そのとんち話は後世まで語

「全国最中図鑑」40 北海道クマ最中(北海道札幌市)

世界には8種類のクマがいるそうだが、日本にいるクマは2種類のみ。北海道に生息するヒグマと、本州以南にいるツキノワグマだ。大人のヒグマは体長2〜2.5メートル、体重は150〜250キロ、日本にいる最大の陸上動物である。古代には、大きいということは崇拝に値する特徴だったから、アイヌの間ではクマは神とされていた。 そんなクマを、アメリカ人は「テディベア」という可愛いぬいぐるみにしたが、札幌の餅菓子店では美味しい最中に仕上げた。明治39年創業の美好屋が作った「北海道クマ最中」である。