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何か
あなたは心に空いた穴を埋める為の何かが必要だった
その穴は小さくなることもあれば、さらに大きく割れることもあって、その隙間に無理してねじ込むように私は自分を変えた。
自分なりに一生懸命考えて。
そうやって、あなたの心を満たしていたら、きっと私のことを見てくれる、そう信じていた。
私のことを好きだ、すごく好きだと言ってくれたはいいけど、
あなたは私に何も望まないし、別に変化を求めていなかった。
私が頑張れば頑張るほど空回っているようで、手応えがなかった。
私は、どうしたってそれ以上でもそれ以下でもない穴を埋める異物の何かだった。
その瞬間は良くても見映えも質も、張りぼてだった。
その穴を空けた人しか、綺麗に埋められない。
その穴をもっと大きく出来るのもその人だけ。
その現実がどうしても辛くて、
自分を殺しても殺しても認めてもらえなくて、
誕生日も覚えてもらえてなくて、
私はこんな自分が嫌いだった。
私とあなたの関係を表す肩書きくらい欲しかった。
何も始まっていないし終わってもいない。
生かさず、殺さず、まるでホストに貢いでいるような気持ちだった。
もう私は空っぽだった。
自分の価値を自ら下げていることに、
頭のどこかで気付いていたのに無視していたこの問題と、ちゃんと向き合わないといけない。
その時が来たんだな、と思った。
だから、私はあなたから離れた。
すると、何事もなかったかのように、左手の薬指に、今までつけていなかったシルバーの指輪を急につけて現れたあなたを私は直視出来なかった。
虫除けなのか、決意の表明なのか。
私には到底知りえないけれど、
異物の私は、当て馬だったのかピエロだったのかと自分の存在意義が分からなくなって、
更に傷ついた。
ただでさえ私の心は氷漬けで固まっていたのに、
その瞬間ひびが入る音が聞こえた。
壊れてしまいそうだった。
このままだと私は誰かを殺してしまうか、
本当に自らの命を絶ってしまうか、の
いずれかの2択しか選べなくなりそうだった。
私の味方は誰1人もいない、今の環境。
仕事も恋も私の代わりは誰でもいる。
あがいてもあがいても無駄だった。
『そんなことで、大げさだ。』
みんな乗り越えてきた、全ては経験だ、他人は平気でそんなことを言ってのけるけど、渦中の人間には聞こえない。
痛みや悲しみ、辛さの真髄は、その時その人自身にしか分からないのだから。
だったら、全部捨ててしまおう。
変えよう、自分のいる場所を。
それから1年以上経って、紆余曲折あって、
私はこの文章を書いている。
新しい職場。新しい同僚、友達。
新たなチャレンジと生活。
過去を思い出さないことはない。
けれど着実に私は、前に進んでいる。
少なくとも、もう今の私は『何か』じゃなく、代替品でもない。
かけがえのない、唯一無二の私として、自分を諦めずに生きている。
きっとこれからも。
ずっとそうでありたい。