カタチを変えて
昼休み。
男性社員のほとんどが外に出て
オフィス内にある休憩コーナーは
いろんな部署の女性社員が陣取っていた。
早々にお弁当を食べ終わり、
同僚と取り留めのない話をしていた。
旅行から帰ってきたばかりの後輩が
みんなにお土産を配っている。
「ちょっと見てもらいたいものがあるんです」
先ほどまでお菓子を配っていた彼女が
真剣な顔をして私の隣に座った。
今回の旅先では、物乞いや物売りがいっぱいで
大勢に囲まれることもあって大変だったという。
全員から買ってあげることなんてできない。
断わり続けたけれど、ひとりの少年から
『どうしても買ってくれ』
と懇願されてしまった。
日本円にすればたいした金額ではない。
少年とのご縁を感じてお金を払った。
ただ、本当に買って良かったのかどうか
今でも気になっている。
「これって何だと思います?」
と、差し出す彼女の手のひらを見た瞬間
「うわぁっ!」
と、思わず声が出た。
梵語が彫られた金色の指輪だった。
軽々しく触ってはいけない。
自分の指にはめてもいけない。
この金の指輪は
真夜中に私を揺り起こした
あの菩薩だ。
金の指輪に姿を変えて
あの菩薩が
また目の前に現れた。
そして
私に何か伝えようとしている。
何?
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