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90. 帰り、省みる。

東京の駅と、地元の駅は違う。
景色も、歩いている人も、流れる空気も。

地元に帰って電車に乗ると、今の私の生活のスピードとは違う空気が流れていると実感する。この空気は、私が高校に通っていたときのそれだ。駅は大きくなくて端から端が見渡せるくらい。人はまあまあいるけど、互いに干渉し合わず、静か。そこにいる私は、学校の勉強とか、部活とか、そういうことだけ考えていればよくて、切羽詰まった気持ちでタスクに追われたり、いつも一歩二歩先を考えて行動したりせずに過ごしていた。

東京に出た始めの頃、よく先輩に怒られた。自分だけの視点で生きすぎ、相手のことが見えていない。恥ずかしながらその時の私は「だって私と相手は別の人間だから、相手の気持ちが分かるわけないじゃん」と本気で思っていた。まあまあヤバい。つまり、自分自身の世界に自信と満足感があって、それより外の世界のことをあまり気にしていなかった。

それでも東京で1人で生きてみると、この無加工の自分には人にお金を出してもらえるような価値はなくて、誰かに認めてもらえるようなものはそう簡単に生み出せないことがよく分かった。だから誰かと生きていくために、相手のことをよく見て想像する。勝手に湧き起こる共感を待つのではなくて、自分が相手の立場に立ちにいって、心を寄せて共感する。
練習して繰り返していくと、少しずつ、世界が広がった。自分より外の世界と絡み合っていく面白さと奥深さを知った。知らないことを不安や異物として切り捨てるのではなくて、好奇心で扉を叩いてみるだけの足場ができた。知らない土地で、知らない人と話して、それを楽しむだけの余裕や視野の広さが手に入った。


地元の駅に流れるこの穏やかな空気が好きだ。ここは間違いなく私のホームタウンだなと思う。でも、心地のいい空間にいるだけでは出会えないものが確かにあった。
東京の駅は大きくて、雑多で、私はいつもそこにポツンと1人でいるけど、不思議と不安には思わない。

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