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グアテマラで涙

フエフエテナンゴにある国境を超えて入国。山に囲まれた谷間の道が続く。車やバイクからなにやら大きな声で何か言われるけど、野次なのか挨拶なのか分からないほど語気が強い。バスはクラクションを鳴らしながら、すごい勢いで追い越していく。規制がない古いアメリカ仕様の日本車が、真っ黒な排気ガスを撒き散らしている。時々サブリナが排気ガスで見えなくなる。車の数も多い。それでも、山間部に抜け道や逃げ道はない。走り続けるしかない。

グアテマラ入国前に体調を崩して、1週間寝込んでいた。どうにかまた進めるくらいまで回復して、半ば強引に再出発。目眩がする。でもこれ以上無駄に止まって時間を使いたくない。どうせ留まるなら気に入った所で楽しく滞在したい。先に進もう。そうして排気ガスがすごくて車通りの多い山道を進んでいたら、少しずつ気が滅入ってくる。

休みたい。でも進みたい。いつまでこの山道は続くんだろう。いつまで自転車に乗り続けることになるんだろう。今休んでも、同じようにまた辛い山道を進まないといけない。あと何日?何ヶ月?何年?どんどん気分が落ち込んで行き、同時に自転車を漕ぐスピードも落ちていく。普段なら難なく進める登り坂も、段々キツくなっていく。少しずつサブリナを待たせる時間が長くなる。どうしたの?と聞かれても、目眩が少ししんどいと答えるだけ。まだ体調が万全じゃないと思い込んでいたけど、実は精神が壊れかけていた事にまだこの時は気付いていない。止まりたくないから自分の状態をじっくり見ようともせず、無視してゆっくりでもいいからとにかく進もうとしていた。

こうしてグアテマラに入ってから3日目、この国で1番の楽しみだったアディトゥラン湖に到着する直前に、ついにしんどさのピークに。登り坂はもう自転車を押して登る事しかできず、自転車を置いて壁に頭を打ち付けたい苛立ちにかられて、登るのも諦める。心配しているサブリナを横に、道路に座り込んで大きな声で泣いた。何をしてるんだろう?いつまで続くんだろう?休みたい。しんどい。楽しくない。つまらない。帰りたい。もうやめたい。

この日は近くのホテルに避難して、気持ち的には頭も体も回復させるためにそのまま滞在したかったけど、出費がかさむためその次の滞在予定だったアンティグアの自転車乗りの家まで移動する。3日間滞在して、サブリナは近くの登山しに、私はその山が見えるテラスのハンモックで休養することにした。家主はドイツ人のトーマスさんで、奥さんがグアテマラ人。6年自転車旅をしていた道中で出会った奥さんとの子どもが出来て、自転車からは降りたとのことだった。パンケーキやヨーロッパ式のレンティルスープ、オーブンで焼いた野菜でもてなしてくれて、少しずつ心も整っていった。

メキシコで出会ったグアテマラ人とホンジュラス人のカップルが、アディトゥラン湖畔に家があるからまた会おうとしていたけど、2人とも用事でしばらくグアテマラからは出ていて再会は果たせなかった。それでも2人の家を使っていいよと言ってくれ、トーマスさんの家に自転車を置いてバスで戻って滞在することにした。

チキンバス(観光客からの呼び名で、地元の人が使う運転の荒い公共バス)を5本とボートを乗り継いでアティトゥラン湖畔の町、サンルーカストリマンへ。そこは地元の観光客で賑わうところだった。

2人の家は寝室が3つもある大きな家で、レンガ作りで高い天井、暖炉に大きな窓、窓の外には手入れの行き届いた庭、湖への桟橋があって家から直接船も出せる豪邸だった。普段はAirbnbでも貸していて、ちょうど2泊の空きがあったところを、光熱費の10ドルだけ払って泊めてもらう。休養どころか自転車旅の最中とは思えない豪華な宿に大興奮。

湖とカヤックとプールとビールと冷蔵庫と大きなキッチンを堪能して、鬱もおさまり、ぼちぼちまた進み始めることに。体の調子が悪い時は無理せず休んで、ケチらず健康には投資した方が良い。やりたいのかやりたいと思いたいのかやらなくてはいけないと思っているのか、自問自答をしていきたい。

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