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薄暮記(はくぼき)(0:1:1)


ジャンル:ファンタジー、童話
上演目安時間:15分〜20分
登場人物:2人(不問×1 女×1)演者性別不問

みつ:女性。蜘蛛の巣につかまった子。
瀬上:不問。妖怪や化け物が好き。だいぶ変人。


0:あらすじ(読んでも読まなくてもOK)
変わり者の瀬上は、妖怪を探して藪の近くを歩いていた。
しかし幾ら歩いても妖怪の姿はなく、諦めかけた時に見つけたのは蜘蛛の巣に捕らわれた美しい羽根。
助けを求めるみつに、瀬上は「なぜ捕まったのか?」と質問をはじめるが…ーー


0:本編
タイトル:薄暮記(はくぼき)
 
みつ:(M)春昼(しゅんちゅう)の誘惑。
みつ:私はもうすぐ、死んでしまうのだ。
みつ:そんな時に出会ったのは、妖怪よりも奇妙な人間だった。

瀬上:「ー成程、それで君はそこにいるのか」
みつ:「…助ける気がないなら、どこかに消えて」
瀬上:「いや、助けないとは言ってないよ」
みつ:「それなら、さっさと助けてよ」
0:動かない瀬上を痺れを切らす様に睨む
みつ:「いつまで見てるの?」
瀬上:「雨粒が銀糸(ぎんし)の様に、君の体に、羽根に絡む姿は、とても綺麗だね」
みつ:「…っ あくしゅみ」
瀬上:「そうかな?」
瀬上:「誰だって美しいものは好きだよ」
みつ:「はあ…。勝手に言ってれば?」
みつ:「あぁ、もう直ぐ日が落ちてしまう…」
みつ:「早く逃げないと、」
0:じたばたと体を動かすも余計に絡まってしまう
瀬上:「ふふ」
みつ:「、もう!どこかに行って!じゃま!」
みつ:「私が食べられる所まで、そうやって見てるつもり?!」
瀬上:「ああ、いやそんなつもりは無いんだけど」
瀬上:「…君が暴れる分だけ、糸に鱗粉がつく」
瀬上:「夕陽がそれを照らして更に美しくなるな、と思ってね」
みつ:「…イカれてる」
瀬上:「そうかな」
みつ:「死ぬ前に話すのが頭のおかしい奴なんて…」
0:眉を寄せて苦々しげに息を吐く
瀬上:「君も同じだよ」
みつ:「…え?」
瀬上:「君はさっき、慌てていたから蜘蛛の巣に気づかなかったと言ったけれど、それは本当?」
みつ:「何?なんでそんな事を聞くの」
瀬上:「君は、この辺りで花を探していた」
みつ:「そうだけど…。それが何?」
瀬上:「雨が降ったのは夜更けから今日の朝まで」
瀬上:「君がここを通りがかった時にはもう、この巣には露になった雨粒が張り付いていた筈だ」
瀬上:「幾ら急いでいたからって、気がつかないかな」
みつ:「何が言いたいの?」
瀬上:「君は気づいていて、この巣に手を伸ばしたんじゃないかい?」
みつ:「…そんな事、する筈ないでしょう」
瀬上:「『誰だって、美しいものは好き』だよ」
みつ:「……」
瀬上:「八方に張り伸ばされた見事な円網(えんあみ)…落ちてなお形を保ち、太陽の光を受ける雨粒…」
0:うっとりとみつの絡まる蜘蛛の巣を眺める
瀬上:「一種の芸術と呼んでも良い」
みつ:「…だからといって、自分が絡まるとわかっていて、みすみす手を伸ばす?」
瀬上:「人が美しいものを見た時の行動は、二つ」
みつ:「…なに?」(やや呆れたように
瀬上:「その光景を瞼に焼き付けるか、自分の物にしようとするか」
みつ:「私は、その後者だって?」
瀬上:「ああ。」
瀬上:「君は、絡まると知っていて手を伸ばした」
瀬上:「その美しさを、自分だけの物にしたかった?」
みつ:「……」
瀬上:「でも、死を前に怖くなった」
瀬上:「それか僕が君を見つけてしまったから、恥ずかしくなったのかな」
みつ:「…本当、よく喋るね」
瀬上:「君の事が知りたいんだ」
みつ:「…はぁ、呆れた。」

0:迷うように目を伏せてから口を開く

みつ:「まぁいいか、どうせ死ぬんだし…。」
みつ:「あなたの言う通りだよ。」
みつ:「蜘蛛の糸は危険だと知っていたから、いつも飛ぶ時は気をつけていたの」
みつ:「でも今日見つけたこれはあまりに綺麗で…」
0:思い出すように瞼を伏せる
みつ:「光に照らされてきらきら輝く姿は」
みつ:「これまで見た景色の中で一番美しいと思った」
みつ:「だから危険な事もわかっていたけど、少しだけ…。少しだけなら、って」
瀬上:「そして少しのつもりが、案の定絡められた…と」
みつ:「そう。馬鹿らしいでしょ」
瀬上:「…そんな事はないよ」
みつ:「自分が完全に絡まった事にも暫く気づかなかった」
みつ:「雨露(うろ)を越して眺める太陽が」
みつ:「―…とても、綺麗だったから」
瀬上:「……」
0:語るみつの姿に目を細める
みつ:「でも飛び立とうとしたら羽根が動かなくて、急に怖くなった」
瀬上:「…死ぬことが?」
みつ:「この巣には作った奴がいる事を思い出したの」
みつ:「そいつが戻ってきたら私は死ぬんだ…って思ったらゾッとして」
みつ:「必死にもがくほど余計に糸が絡んで、途方に暮れた」
みつ:「そのまま時間だけがすぎていって」
みつ:「気づいたら、あなたがいた」
瀬上:「…そう」
瀬上:「はじめは、どうして嘘を?」
みつ:「だって…、馬鹿みたいでしょ?」
みつ:「食べられるって分かってて巣に手を伸ばすなんて」
瀬上:「そうかな」
みつ:「…そうだよ」
みつ:「あなたはそう思わないかもしれないけど」
瀬上:「ふふ」
みつ:「こんな話、聞いて何になるの?」
瀬上:「君を知りたいんだ」
みつ:「…やっぱり、あくしゅみ」
瀬上:「僕はよくこの道を使っていてね」
瀬上:「藪(やぶ)が近くて、時々『向こう側の生き物』が紛れるって噂を聞いたから」
みつ:「向こう側の生き物?」
瀬上:「妖怪や化け物、というとわかりやすいかな…。人でも獣でもない、違う世界の生き物の事だよ」
みつ:「あぁ…。ヨウカイ、聞いたことがある」
みつ:「何も無い所に灯りが浮かぶの、見たことがあるよ」
瀬上:「狐火だね。僕も見た事がある」
みつ:「それで?それが何なの?」
瀬上:「はじめは君もその類かと思ったんだ」
みつ:「私が?」
瀬上:「ああ。あまりに幻想的な姿をしてたから」
瀬上:「君自身が囚われた蝶に化けた妖怪で、僕が手を伸ばすのを待っているのではないか、と」
みつ:「…呆れた。本当に浮(うわ)ついた人」
瀬上:「でも、話を聞く限り違うようだね…」
みつ:「そんなに露骨(ろこつ)にがっかりしないで」
瀬上:「…本当に違う?」
みつ:「残念だろうけど、違うよ」
瀬上:「そっか…」
みつ:「…で?結局、助けてくれるの?」
瀬上:「あぁ…それは」
みつ:「分かってる。助ける気はないんでしょ?」
瀬上:「?」
みつ:「『美しいものを見たときの行動は二つ』」
みつ:「『その光景を瞼に焼き付けるか、自分の物にしようとするか』」
みつ:「あなたは前者でしょう?」
瀬上:「へえ、どうしてそう思うんだい?」
みつ:「だって……」
みつ:「さっきからずーっと見てるだけ!」
みつ:「助ける気があるなら…、それか、自分のものにしようとするなら、もうとっくに手を伸ばしてる!」
瀬上:「はは!君は結構、堪え性がないね」
みつ:「ふん。悪かったわね」
瀬上:「…でも、その考察はあってるよ」
みつ:「ほら」
瀬上:「―半分、ね」
0:巣に手を伸ばし、体に絡んだ糸を丁寧に外す
みつ:「え、…?」
瀬上:「ああ、やっぱり綺麗だ」
0:空に翼を広げるみつを見上げる
みつ:「驚いた。どうして助けてくれたの?」
瀬上:「僕はね、美しいものは見ていたいけれど、同時にずっと、綺麗なままであって欲しいと願う性質(たち)でもあるんだ」
みつ:「ふふっ、変な人」
瀬上:「そうかな?君も大概だと思うけど」
みつ:「まぁそれはそうかも知れないけど…」
0: 何かを考えるように目線を泳がせるみつ
みつ:「そうだ」
みつ:「お礼に一つ、間違いを教えてあげる」
瀬上:「間違い?」
みつ:「うん。このままだと可哀想だと思って」
みつ:「あのね、あなたが綺麗だといった私は―」
瀬上:「―蝶の擬態?」
みつ:「! 気づいてたの?」
瀬上:「うん。君はアゲハモドキ…蛾だね」
みつ:「せ、正解…」
瀬上:「うん、やっぱり」
みつ:「なぁんだ」
みつ:「あんまり綺麗だって言うから、蝶と間違えてるのかと思った」
瀬上:「ううん。初めから分かってたよ」
瀬上:「なにも綺麗なのは蝶だけじゃない」
瀬上:「…君はとても、綺麗だよ」
みつ:「…やっぱり、あくしゅみ」
瀬上:「そうかな」
みつ:「そうだよ。 …」
みつ:「あなたみたいな人間、見た事ない」
瀬上:「それは、嬉しいな」
みつ:「何が嬉しいの?」
瀬上:「君の初めてになれたって事だよね」
みつ:「〜へんたい!」
瀬上:「え?」
みつ:「もう行くから!」
瀬上:「うん」
瀬上:「次は気をつけるんだよ」
瀬上:「君は自分で思っているより脆いから」
みつ:「うん」
みつ:「あ、そうだ。一つだけ教えて」
瀬上:「なんだい?」
みつ:「あなたはどうして私の言葉が分かるの?」
瀬上:「僕は…昔からそうなんだ」
瀬上:「虫や獣、小さな生き物と会話ができる」
みつ:「へえ、変わった特技ね」
瀬上:「それも君達が僕と話したい時だけ」
みつ:「何それ?」
瀬上:「さあ?でもいつも話せる訳じゃないんだ」
みつ:「へんなの」
瀬上:「そうかな?」
瀬上:「でもそのお陰で君を助けられた」
みつ:「うぅ…それはそうだけど…」
瀬上:「君が僕と話したいと思ってくれた事も嬉しかった」
みつ:「まさか返事があると思わないし、」
みつ:「気づいたら助けて貰えるかと思ったから」
瀬上:「うん、それでも嬉しかった」
みつ:「ねぇ、名前は?」
瀬上:「僕は瀬上(せがみ)。君は?」
みつ:「私はみつ。助けてくれてありがと、瀬上」
瀬上:「ううん。会えてよかった、みつ」
瀬上:「気をつけて帰るんだよ」
みつ:「うん、瀬上もね。じゃあ」
0:空に飛びあがりかけて、瀬上を見下ろすみつ
みつ:「―瀬上 」
瀬上:「なんだい?」
みつ:「綺麗っていってくれて、ありがとう!」
瀬上:「君は綺麗だよ、みつ」
みつ:「~…ッそんなに何度も言わないでいいから」
瀬上:「思った事しか言ってないんだけどな」
0:ぽかんとしてから笑い出す
みつ:「ふふ、…ふ、 あははっ」
みつ:「あなたは本当に、変な人だね」
瀬上:「―?」
みつ:「あーあ、瀬上と話してると色々バカらしくなってくる」
瀬上:「それは、どういう意味?」
みつ:「無自覚かぁ…まあ、そうだろうね」
瀬上:「教えてくれないの?」
みつ:「教えない」
みつ:「多分そのままがいいんだよ、瀬上は」
0:瀬上を見て目を細め、息を吐く
みつ:「―それじゃあ、今度こそ行くね」
瀬上:「うん、またね。みつ」
みつ:「もう『また』は、無いと思うけど」
瀬上:「そうかな。君なら次があるかもしれないし」
みつ:「~気をつける!もう次はないから!」
瀬上:「… うん。分かった」
みつ:「じゃあ…。ばいばい、瀬上」
瀬上:「うん。さようなら、みつ」
0:見つめ合った後、飛んでいくみつ
瀬上:「……」
0:その姿を見送り、目線を下ろす

瀬上:(M)薄暮期に出会った、蛾のみつ。
瀬上:もぬけの殻になった蜘蛛の巣には、雨露(あまつゆ)と共に、あの子の残した鱗粉が夕陽に輝いいていた。
瀬上:この巣の家主には、悪いことをしたな。
瀬上:そんな事を考えながら僕は、恨めし気に藪を眺めた。

0:end


2022/01/15 ボイコネ投稿作品

お疲れ様でした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
和風ファンタジーな話が描きたくて。
一期一会の出会いって面白いですよね。
その内のんびりシリーズ化するかもしれない。

小ネタ(タイトルの由来)
薄暮→夕方・日暮れ時を指す時間。
  『薄暮の出会いを記した話』で薄暮記。

シリーズ続編?ができました→『逢魔ヶ童記』
https://note.com/monookiba/n/n8a9e2e5ad10c

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