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【保存版】インタビュー田原町09 『死なれちゃったあとで』前田隆弘さんに聞きました

「四捨五入で無職」だった頃、誰もするものがなかった片山恭一インタビューからはじまった


4/27㈯ 浅草、Readin’Writin’ BOOK STOREでの「インタビュー田原町09」、『死なれちゃったあとで』(中央公論新社)を書かれた前田隆弘さんの回の記録です。18000字(※オンライン配信なしの有料イベントの文字起こし記録で有料設定にしています。加筆あり)

いつもながらゲストとはこの日が初対面。前田さんは小腹がすいていそうに見てたので合間につまめるようコンビニのお菓子を渡すと、喜んでもらえた。19時イベント開始というのは腹具合を考えると微妙な時間。インタビューするわたしは、仕事前は食べないことにしているが、グゥとならないか不安もある。そうそう。前田さんから「昨日、鹿児島に行っていたんですよ」と知覧のお茶をお土産に頂いた。パックがお洒落だった。この日の客席は20人余り。大半が女性だった。

話し手=前田隆弘さん
聞き手・構成🌙朝山実
illustration©️KUMさん


着席後、テーブルにICレコーダーと時計を置くのを見ていた前田さんから
「懐中時計なんですね?」ときかれ、
腕時計が肌にあわなくて、と説明する。



前田さん(以下略)    いや、これだけはっきりテーブルに(時計を)置かれると、わかりよいなあと思って。



🌙えっ、そうですか?

(取材中)腕時計を見るのに僕は、こいつ時間を気にしているなあと思われるのが嫌で、相手の背後に時計が掛けてあったりすると助かるんですけど。そうじゃない時は、腕の内側に(時計の針が)見えるようにして、「ああ、なるほど」とうなずきながら、ちらっと見たりするんですよね。

🌙あるある、ですね。わたしも、内側に文字盤がくるようにしていたことがありました。でもベストは、相手の背後に時計があることですよね。たとえば時間が限られている映画の宣伝がらみの取材などは、担当のひとに「あと5分とかサインをください」とお願いするんですが、前田さんは?

「あと、5分」と言われると、もうここでゴールを決めないといけなくなる。最後の質問というのがプレッシャーで。むしろ、いきなり「もう終わってください」と言われたからやむなくこれで終わります、というのがいいですよね。
「今後の抱負を」とか「ご予定は?」みたいなことで〆るというのはやりたくないというか。まだまだ聞きたいことがあったんだけど、と終わるのがいい。
そういう予定調和的なのが嫌で、自分でインタビューもするようになったんですよね。

🌙というと?

もともと福岡で売れないインタビュアーをしていたんですけど、上京してすぐのときにwebディレクターの仕事に就いて。それはインターネットの企画モノの頁の、僕が企画を立ててライターに頼んで立ち会う。でも、「これからの抱負を?」とか、つまんないことを聞くなあということが多くて。あと、トークショーとかでも多いのが、面白そうに話しているんだけど原稿にするとあまり中身がなかったりする。

🌙だったら、自分がやろうということでライターも引き受けた?

そうですねえ。

ここで時計を見ると定刻の7時をすこし過ぎていた。
ざわついていた場内が静かになっている。




🌙では、始めましょうか。というか、もう、なんとなく始めちゃっていますね(笑)。
ノンフィクションの書き手に「どのように取材し、書いていますか」と聞いていくシリーズの9回目になります。ゲストの前田さんは『死なれちゃったあとで』の中央公論新社版の前に、同じタイトルの私家版を出されているのと、『何歳まで生きますか?』(PARCO出版)という、二階堂和美さん、雨宮まみさんなど10人くらいにインタビューした本があり、その本のことにも触れられたらと思っています。
わたしが私家版のほうを読んだのは、きょうも会場に来ていただけたひとから、あるイベントの会場で「これ、読むでしょう?」と差し出されたのがきっかけだったんですね。Twitterで話題になっていて、本屋さんで見かけたらと思っていたのを半ば押し売りされたというか(笑)。とくに前田さんの知人とかでもないのに、出会ったら渡そうと余分に購入したというのが何とも面白いなあと思いながら、読んでみたらすごくハマってしまった。
これはきっとどこかの出版社が本にするだろうと思っていたらという経緯なんですけど。私家版が出て、1年になるんですか?

いえ、まだ1年経ってないんです。去年の今頃はまだ原稿を書いている途中でしたから。

客席で、サンプルの1冊しか残っていない、
前田さんに持参してもらった『死なれちゃったあとで』の私家版を
回して見てもらう。


私家版のドタバタ詳細



🌙文学フリマというイベントに誘われて出店するのに合わせ、書きはじめたられたとか。

そうなんです。去年の文学フリマが、5月の中旬で。ゴールデンウィークを使って書き上げたらと思っていたのが、終わらず。

🌙日曜がイベント当日なのに、原稿を書き上げたのが金曜だったとか。たとえ少部数とはいえ、製本を考えるとよく間に合ったなあと。

部数は100冊なんですけど。すでにもうこれでは出せないと思って、印刷会社にはいちばん高い特急便を頼んでおいたんです。これは予約しないといけないのと特別料金が加算されて、通常の倍。それを予約して。最悪、入稿できずにお金を払うことになっても仕方ないやと。そうやってギリギリまで可能性を残しておいたんです。
それでゴールデンウィークが終わってもまだ半分いかなかったのが、入稿まであと2日となってエンジンがかかり、木曜の夕方に原稿を書き終えたんです。そこからインデザインって、わかります?

🌙すみません、まったくわかりません。

ページのレイアウトソフトなんですが、それを入れてあったんですけど。まだ使ったことがなかったので、電子書籍で『はじめてのIn Design』という買っておいた本を読み始めるんです。

🌙原稿を書き終えて初めてそのガイドブックを読むんですか?

そうです。でもイチから読んでいたらこれは間に合わないと思ったので、ネットで検索したら「小説の文庫本を作るには」という超具体的な記事が載っていたので、もうその手順にそって。

 🌙あのう、ほんとうに木曜の夜になってそういうことをやっていたんですか?

そうです、そうです。だから、フォントもデフォルトで設定されている「小塚明朝」というものを使い。


『死なれちゃったあとで』私家版


 🌙事情を聞いて、いま、えっ!?なんですけど。書体を含め、シンプルで洒落ているなあと思っていたもので。いい造本だなあ。デザイナーは誰なんだろ、幾らくらい払ったんだろうとか。

ありがとうございます(笑)。
まあ、デフォルトのフォントですから、ヘンなものではないだろうし。表紙はふつう、イラストレーターというのを使うんですけど、これもいまからインストールしてやっている時間はないと思い、「インデザインで表紙を作る方法」と検索したら出てきたので、その通りやりました。

🌙前もって、そういうことを調べるとかは?

だって原稿が書けていなかったので(笑)

🌙では、このシンプルで白地に文字だけの潔い装幀は、狙って作ったというわけでもない?

いや、半分は狙いました。
木曜の夜に作っていて、ちょっと寂しいなあと。画像要素を入れようと、写真とか張り付けたりするんですけど、どうにも中途半端で。書名が、インパクトがあるのと、もともと自分のことを知らない人に向けた本なので、お客さんが文学フリマの会場でうろうろしていて目につくのは、白地に大きなタイトルだろう。それにいまどき、こんな表紙で出そうというやつはいないだろうと。

🌙なるほど。大きさも掌に収まる感じがいいんですよね。文庫サイズにしたのは?

ひとつには、単純に原稿の量が少ないというのは編集者として分かっていたので、ふつうの判型にすると薄いものになる。薄くて如何にも同人誌ですというのは、嫌だし。厚みを出すには文庫本にするのがいいだろう。コストも安いし。あと、シンプルな装丁でも、この判型なら逆にいいかもしれないと。

🌙細かいことでいうと裏表紙にまで、文章が入っているのが洒落ていると思いました。

ありがとうございます。帯をつける余裕もなかったので、タイトル以外に中身がちょっとわかるものをというので、新潮文庫とかのウラにサワリが書いてあるのを真似て。売っている人が目の前にいるところで、パラパラ立ち読みしても中身は頭に入らないですよね。それならウラに抜き書きを入れよう、と。

🌙時間がない中で、いろいろ考えられたんだ。失礼ながら前田さんのことをよく知らなかったので、どういう人なのかと本のプロフィールを探したら、1行しかない。インタビュアー、編集者、ライターというだけ。

そうです、そうです。

🌙あとで気づいたんですが。編集者だったら、束(つか)見本という、書店や書評担当者などに向けて作成するサンプル本のことは知っているだろうから、あの造りに近いものを考えたのかなあと想像もしたんですけど。でも、束見本はたいていが単行本サイズで、見た目もオシャレではないんですよね。

ああ、そうですか。シンプルだけど、安っぽいものは嫌だというのはありました。たまに名だたる装丁家に頼んだ、文字だけなんだけど何だか重量感のある装丁というのがありますよね。そういう感じに誤認してくれないかなあというのはありました。

🌙誤認、ですか(笑)

ええ。たぶん、ちゃんとしたデザイナーだとグリッドのコンマ何ミリ単位で合わせるんでしょうけど、僕は目分量でカチャカチャっとやったくらいで。

🌙これ、作ったのは100冊だけ?

100部です。見本を入れて103だったかなあ。

🌙当日、完売したんですよね。

102冊。サンプルは残して。

🌙わたしがいま持っているのは、3版なんですけど。

3刷までいったところで、いまの本の出版が決まったので、そこで増刷はやめました。

🌙誤字とか少ないように思いました。

いえ、最初のものにはむちゃくちゃありました。版を重ねるたびに直して。読者からも、ここ間違っていますよとメッセージをもらったりして。

片山恭一インタビュー顛末記


 🌙それで、この私家版と中央公論新社版の異なる点は、「死」に関するテーマから外れるものは新しい本では落とされていて、新たに書き下ろされたものもあります。残念なのは落とされた中の一編に、前田さんの初めてのインタビュー記事が載っているんですね。

正確にいうと初めてではなく、二回目になるんですが。

🌙そうなんですか。で、『世界の中心で愛を叫ぶ』がベストセラーになった作家の片山恭一さんをインタビューされている。
映画にもなって大ブームにもなり、取材は一切受けないといわれていたときのこと。インタビューそのものも面白いんですが、片山さんを探し出して会うまでの過程がミステリー小説を読むように面白くて、前田さんを物語ってもいるんですね。そのあたり話してもらえますか。

僕がサラリーマンを辞めて、福岡にいたときなんですけど。辞めたのも何かになりたいからではなく、ただただ会社から逃げたくて。将来のことはあとで考えようという。
しばらく失業給付金をもらいながら、まあ海に行ったりして。そろそろお金が尽きてきて、さあ、どうしよう。会社員はもうやりたくないし、フリーライターになろうか。それで名刺を作ってみたけど、当然仕事が来るはずもなく。四捨五入で無職の期間が3年くらいつづくんです。さすがに、これはまずいなと編集会議がやっていた編集・ライター講座に通ったんです。その16万円は親に出してもらって。

🌙へえー。

もともと僕は広告代理店にいたこともあり、同期の人間がそこのコピーライター養成講座に通って電通とかに引き抜かれたのを知っていたのと、九州全県のタウン誌の編集者とリクルート出版の人たちが集まっていたから、ここで実力を発揮したら仕事の引き合いもあるんじゃないか……。そういう欲もあって。あと、3年ほぼ無職で、もうこれでダメなら足を洗おうという気持ちだったんですね。
毎月課題作品に合格すると金のエンピツというのがもらえるんですけど、俺がいちばん獲得本数が多かったんですよ。卒業制作で、なんでもいいから記事を書いて提出するというので、僕は片山さんのインタビューにしたんです。
というのも、一年くらい前に『噂の真相』という雑誌に一行情報というのがあって「片山恭一、売れなかった頃に冷たくしていた編集者の手のひら返しで人間不信に陥っているとの噂」という一行が載っていたんですね。

🌙『噂の真相』の見た記憶があります、それ。

たしかに本人を見ないなあと思っていたんですよね。『世界の中心で』が流行語大賞をとったときにも表彰式に出たのは、長澤まさみで。その場にすら本人は出てこなかった。ということは、あれはウソじゃないだろう。
調べてみたら、九州大学出身で福岡に在住らしく、福岡の紀伊國屋書店さんに顔をだして「ぼくの本、売れていますか」と聞いたりしていたという記事を読んだ記憶もあり、だったらワンチャン(ス)ある。

🌙なるほど。

それで、こういうテーマでやりますと講師に伝えたら、すごいなあと言われたんですけど、講師から「こういうところに訊ねてみたらいい」というアドバイスをもらえるかなと思っていたら、「どうしたらいいか分からないねえ」って。えっ!? 何のためにお金を払ってきたんだよって。

🌙そこであきらめる人もいるだろうに、前田さんが独特なのはそこから自分で調査をするんですね。

最初は、新聞社に当たったんですけど。受付の人にこういう理由で、と言うと、「いま担当者不在ですので。折り返させます」と言われ、しかし待てども絶対に連絡は来ない、の繰り返し。これはダメだと。
次にGoogleで「片山恭一   住所」で検索するんです。時間はたっぷりあるので。当時50ページくらい読んだんですけど、当然、住所は出てこない。だけど、同人誌を主宰していたというのがわかったんです。
ああ、そうそう、その前に電話帳も調べたんですよ。九州大学出身なので、きっと東区に住んでいるにちがいないとあたりをつけ、東区の電話ボックスまで行って電話帳を見たんです。だけど、載ってなくて。

🌙なんだか刑事みたいだなあ(笑)

ええ。それで同人誌は投稿を受け付けるので住所を載せていたりするんですよね。ダメ元で福岡市総合図書館の郷土資料室で探してみたら、あったんですよ、その同人誌が。昭和59年の。
見つけたのは2006年です。これで住所はわかった。

🌙訪ねてみた?

すぐクルマで現地まで行きました。昼間は怪しまれそうなので、深夜に。

🌙深夜に(笑)。それで?

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