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        駅

                              ゆきひら

 成人式、同窓会とイベント続きのために、長く帰郷していた息子を車で送っていった。

 駅が近づくと、息子が呟く。
「この駅の風景を見るとさみしくなるんだよな。」

 そう言えば、息子の幼少期、元夫の出張の送り迎えのために、こうして何度もこの駅の近くに車を停めた。

 駅からの登り口から夫の姿を見つけると、息子は車の窓から身を乗り出して、大喜びで父親の帰りを迎えた。
 帰りはその逆で、寂しそうに夫の背を見送ると、動き出した車の中で、黙って涙をこぼしていた。

 最後に夫を見送ったのは、息子が高校を卒業する頃だった。夫はその後、帰らなかった。

 息子は自衛官として、次は長崎に赴任することが決まっている。
「遠いな。」
 そう呟いた私に、息子は、次はきっとこっちに帰ってこれるようにするからと慰めてくれた。

 (きっとだよ。)
 声には出さないけど、心の中で呟いた。動き出した車の中で、黙って涙をこぼしているのは、むき出しの女の子のような私の心だった。

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