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【創作の設定あるある】でっかくなっちゃった系作品についての考察

 「でっかくなちゃった!」と叫ぶ芸人のネタがある。マギー審司と呼ばれる芸人のネタで、台詞と同時に彼の耳が文字通り「でっかく」なる。筆者が幼稚園児か小学生のときに一世を風靡していた。失礼だがまぁ本当にネタとしてはひどく単純で、これが通用するのはせいぜい小学校低学年くらいだろうなぁとずっと思っていた(マギーさんごめんなさい)。

 だが最近思うのは、その本質と言うか、「でっかくなる」ことのインパクトそれ自体は意外とよく見られるんじゃないか、ということだ。特に創作界隈で。

 今日はこれらを「でっかくなっちゃった」系作品と呼んで、いくつかの例を取り上げてみようと思う。

『横浜駅SF』

改築工事を繰り返す<横浜駅>が、ついに自己増殖を開始。
それから数百年――JR北日本・JR福岡2社が独自技術で防衛戦を続けるものの、日本は本州の99%が横浜駅化した。
脳に埋め込まれたSuika で人間が管理されるエキナカ社会。その外側で暮らす非Suika 住民のヒロトは、駅への反逆で追放された男から『18きっぷ』と、ある使命を託された。
はたして、横浜駅には何があるのか。人類の未来を懸けた、 横浜駅構内5日間400キロの旅がはじまる――。

 どうだろう。あらすじを読んだだけで爆笑し、読む気力が湧かないだろうか。横浜駅が「でっかくなちゃった」のは明らかにギャグとしての手法である。だが中身はオーソドックスな管理社会を描いたハードSF。これはギャグの手法と、巨大な管理社会というSFの設定があまりにも自然に結びついてしまった好例である。

『BLAME!』

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 遥か超未来、都市は複雑高度に階層化され、都市環境は堅牢な『超構造体』に内蔵された『システム』により支えられていた。コンピュータ・ネットワークは極限まで発達し、『統治局』により管理された一大ネットワーク社会『ネットスフィア』は、実社会と同じか、それ以上へと拡大し、ネットワークへの正規アクセスを可能にする『ネット端末遺伝子』の保有そのものが市民権と同義となる。人類の生存圏はネットワーク・スペースへと置き換わり、仮想空間の事象を現実世界へ反映させるなど、理想の世界を構築した。
 しかし、『災厄』によりネットスフィアは機能不全に陥り、『珪素生物』による感染症の蔓延により人々からネット端末遺伝子が失われたことで、ネットワーク社会は崩壊する。制御が失われた『建設者』により際限なく拡張され続ける都市構造物は、やがてその惑星系すら内部に取り込み、不安定な連結がネットのカオスを加速させる。ネットスフィアの防御機構である『セーフガード』は、管理規定にのっとりアクセス権のない人類を不法居住者として排斥し続け、珪素生物はネットの機能回復を阻止すべく人類を襲撃する。人々は繁栄の記憶を忘れ、全てが壊れた世界の片隅で短い生を生きる。人類の黄昏の世界が舞台である。
 主人公の『霧亥(キリイ)』は、正常な『ネット端末遺伝子』を持つ人類を探し、ネットスフィアの機能不全を維持しようとする珪素生物の襲撃を退けながら巨大な階層都市を探索し続ける

 類似作品に、BLAMEという漫画がある。これは既存の概念がでっかくなっちゃったというか、「ただひたすらでっかい」作品であるが、超絶面白いことには間違いない。巨大建造物、張り巡らされたパイプ、そして全てを破壊しつくす拳銃、そのすべてが絵としてサマになってる。近年では『工場萌え』として川崎の工場群を船上から撮影する需要があると聞く。きっと巨大な建造物にはマニアを惹きつける根源的な魅力があるのだろう。


天駆せよ法勝寺

巨大な九重塔・法勝寺は、仏教発祥の星・閻浮提を代表する星寺にして最新鋭航行機能を備えた飛塔である。三十九光年離れた星の大仏の御開帳に向かうため、七名の宇宙僧を乗せ、四十九日の旅に出るが……飛行中の法勝寺を怪異現象が襲う。

 お寺の概念が「でっかくなちゃった」作品。法勝寺という巨大なお寺が宇宙に旅立つ。これもタイトルのインパクトだけで笑いを誘う。

一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた ~落第剣士の学院無双~

周囲から『落第剣士』と蔑まれる少年アレン=ロードル。彼はある日、剣術学院退学を懸けて同級生の天才剣士ドドリエルと決闘することになってしまう。勝ち目のない戦いに絶望する中、偶然アレンが手にしたのは『一億年ボタン』。それは「押せば一億年間、時の世界へ囚われる」呪われたボタンだった!? しかし、それを逆手に取ったアレンは一億年ボタンを連打し、十数億年もの修業の果て――極限の剣技を身に付け…! 最強の力を手にした落第剣士は今、世界へその名を轟かせる!!

 何も「でっかくなる」のは物体だけではない。「でっかくなる」のは何らかの期間というパターンもある。これは一億年という読者を圧倒する果てしない時間スケールの設定を組み込んだ作品である。これはギャグとして、というより修行の果てしなさの説明として機能している。

創聖のアクエリオン

 読者の皆様は聞いたことがあるんじゃないだろうか。「一億と~二千前前から愛してる~」という歌。言わずもがな、カラオケで定番のアクエリオンの歌である。個人的には歌だけ独り歩きして有名なアニメNo1だと思っているのだが、どうだろうか(勝手な偏見ですみません)。

 「でっかくなっちゃった」 X 〇〇 の 〇〇に、この場合恋愛が入る。これも単に恋愛における想いの強さを補強している。

巨大娘、という特殊性癖

 前述の例では対象の効果を単に高めるだけだったが、この場合は巨大になることで、本来の魅力以外にも、襲われる恐怖だとか、特有のエロスな魅力を高めることとなる。このように「でっかくする」ことが様々な副作用を及ぼすことがあるかもしれない。


まとめ

 というわけで、意外と何でも「でっかくなちゃった」の対象となり得る。単に効果を高めるものから複雑にするまで、様々である。読者の皆様がネタとして使用する際には、よくよくその効果を検討していただきたい。

MONO LITTLEPRESS Vol.2 「不易を疎む」SFアンソロジー

 最後に手前味噌だが、私が作った「でっかくなっちゃった」系作品をひとつ。

 遠い未来、学ぶことが果てしなく増え続け、義務教育が……ついに三万年となる。主人公とそのヒロインは悠久の学生生活の中で、革命を企みながら自分、そして社会、教育の在り方について考える。

 そんな話。これは私が修士課程のときに、「なんか学生時代、長くね? 博士まで行ったらもうほぼ30じゃん。100年後とかもっと勉強すること多くなるし、さらに多くなんじゃね?」とふと思ったことから出発したハートフルなワクワクファンタジーである。皆、どしどし買ってくれ(興味があったらでいいです)。

 


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