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まっすぐな味|香川・小豆島


小さなバスを降り、ジリジリと刺すような日差しの下を歩く。
(ああ、帽子、かぶってくればよかった)
羽田空港のショップで一目惚れした、つばの広いラフィアハット。
フェリーで島に降りたったら、なんだか気恥ずかしくなって、ホテルに置いてきてしまったのだ。

川沿いの道から、住宅街の細い路地に入る。
(本当にこの道なのかな)
心細さがどんどん膨らんで、こらえきれずに汗になって、背中の真ん中をつつつ、と流れた。
心許なさを抱えて歩く私の目に、小さな看板の文字が飛び込んできた。
〈醤油蔵 こちら〉

そこは懐かしい香りがした。
木桶がずらりと並ぶ蔵の中は、涼しいのかと思いきや、外と同じくらい暑い。
蔵人が、長い櫂を使い醪をかき混ぜる。どぷん。どぷん。
ひと夏で4−5㎏痩せる重労働だ。
櫂をおいたその人は、汗をぬぐいながら「うちの醤油、味見していって下さい」と笑った。
きりっとした塩味の後に広がる旨み。
生一本、そんな言葉が浮かんだ。


*「生一本」(きいっぽん)・・・心がまっすぐで一途に物事に打ち込んでいくさま。


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