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『夏に冬は思い出せない』感想タイム

 先日、演劇ユニットせのび 第12回公演『夏に冬は思い出せない』を観てきました。今回もマジで最高だったので、ささやかな感想を書かせていただけたらと思い、筆を執っています。以下、キリトリ線の下はネタバレを含む感想となっておりますので、ご了承ください。

ーーーーーーーーーーーキリトリ線ーーーーーーーーーーー

 「記憶」をテーマとした今回の作品。
 何が良かったって全部良かったんですよ(全肯定大ファン)音響とか舞台のデザインとか、空気感とか、もちろん役者さんたちの演技もすごい良くて! 前説にストレッチがあったりと、日常から滑らかに始まっていく、演劇という非日常―― せのびの演劇の始まりは、いつも優しくて心地よくて。

 まず観終わって感じたのが、こっちの記憶の底と、忘れてしまっているかもしれない大切な記憶が揺さぶられるような感覚でした。

 何か大切なことを、実は私も忘れているのかもしれない――

 往々にして人はそうやって忘れていく生き物だし、忘れてしまう、忘れてしまった、という喪失感が呼び起されて共鳴したのかもしれない。覚えていること、忘れたこと、覚えていたかったこと、忘れたいのに忘れられないこと。「記憶」の本質は覚えていることだけではなく、忘れることも含まれていて、自分が思い出せなくなったとき、その「記憶」はどうなってしまうのだろうか。
 自分以外の誰かが覚えていてくれたり、どこかに記録されていたりと、完全になくなってしまうわけではないのだろう。そうだといいなとも思う。でも忘れたい記憶ももちろんある。恥ずかしさや、辛さ、苦しさが付きまとうような重々しい記憶だってある。こういった記憶たちとは、折り合いをつけて、それに振り回されないように、生きていけたらいいなと。

 印象的なシーンの話。岬ちゃんの名前を呼ぶ、和巳君の声が木霊するところ。このまま、和巳君は岬ちゃんを見つけられないんじゃないかって、少し怖くなってしまって、でもきちんと二人が見つけ合えて、どこかほっとして、胸をなでおろしている自分がいた。
「三月」というセリフに、ドキリとする。
 ああそうか、私も3.11を経験している以上、切っても切り離せぬ、あの感覚に覚えがある。3.11とは別に怖かったこと、忘れたいこと、忘れられないこともある。さすがに3.11の記憶とはまだ折り合いをつけ切れていない。でも、その他の嫌な記憶たちには折り合いをつけて、振り回されぬようになれた分、私は少しずつ前に進んできたのだと思う。
 季節性うつ、とは違うかもしれないが、確かに、嫌なことや衝撃的なことがあった月が巡ってくると、心がざわつく。忘れはしないだろう、忘れずとも、折り合いをつけることはできると信じている。

 忘れてしまったことは、どう足掻いても忘れてしまったことなので、もう自分の中で取り出すことはできないかもしれない。それでも、その忘れてしまったことが、自分の一部分として今の自分に通じていることは忘れないでおきたいと思います。

 あと、今回もみつけた「空想の中を動いて会いに行って会話をする」シーン! 空想が現実と地続きである、そんなシーンが散りばめられていて大好きです。

 とっ散らかりながらも、心ばかりの感想を書かせていただきました。
 7月の横浜公演は配信もあるそうなので、興味を持たれた方はぜひ。