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おばあちゃんの手作り香り袋

祖母は珈琲が好きな人でした。

私にとって祖母の家の匂いは"珈琲の匂い"です。

丁寧に豆を挽き、ゆっくりと時間をかけて珈琲を入れる後ろ姿は、今でも良く覚えています。

「入れ終わった珈琲はね、こうやって天日干しして、茶こし袋に入れるのよ。珈琲は嫌なニオイをとってくれるの。ほら出来た。手作りの消臭剤ね。」

そう言われて祖母の家を見回すと、トイレや靴箱、ゴミ箱の蓋の裏、ニオイの気になるところには、どこも祖母の手作りした珈琲の香り袋がありました。

「簡単なんだから、あんたもやってみなさいよ」
祖母は幾度となく私に言いましたが、面倒くさがり屋の私はいつも空返事をするだけでした。

長雨が続く6月。祖母が亡くなりました。

遺品の整理を手伝いに、祖母の家へ行きました。

外は連日の雨。湿っぽい匂いが漂います。

しかし、祖母の家のドアを開けると、そこはいつもと変わらぬ珈琲の匂い。"おばあちゃんちの匂いだ"片付けをしながらいくつも出てきた珈琲の手作り香り袋。

"梅雨が明けたら私も作ってみようかなぁ"

太陽が顔を出し、久しぶりに爽やかな日差しを感じられた日の朝。
私は初めて、入れたあとの珈琲を捨てずに、ベランダで天日干しにしました。

不要な紙の上に、入れた後の珈琲を広げていきます。

「おばあちゃん、これ、本当に簡単だね。」

呟いても、祖母から返事が返ってくることはもうありません。
しかし、不思議と心の中は温かな感情で溢れていました。

誰にでもある"香りの記憶"珈琲を飲んでいると妙に安心するのは、きっと香りが祖母との思い出を運んできてくれるから。

お気に入りの珈琲で作る"香り袋"。あなたもお好きなブレンドが見つかったならぜひ試されてみてはいかがでしょうか。


WRITER|竹内りな

子育てをしながら執筆を続けるフリーのライター・コラムニスト。毎日珈琲に始まり珈琲に終わる珈琲愛好家。アパレル業界、一般企業のOLを経て独立。モットーは「楽しまずして何の人生ぞや(吉川英治)」仕事もプライベートも"ポジティブなエネルギー"を大切にしている。

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