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散文「夏休みの宿題と」 2023-02-20

誰からどういうふうに見られているのかは分からないけれど、話すと「意外」と言われるのが、夏休みの宿題の終わらせ方。

僕はもう昔っから絶対に、追い込まれて、ラスト数日にならないと基本的に手すらつけないタイプだった。というか、前もって早めに終わらせる人の存在を本気で都市伝説だと思っていた。

でも、書く仕事をするようになって、書き仕事の仲間が(数人ではあるけれど)できて、話をしてみると、意外と前もって進めて、早めに終わらせるタイプの人が多いことに驚いた。驚いたなんてもんじゃない。驚愕した。そんなホモサピエンスがいるのか、と。

何が凄いって、締切という外的なデッドライン無くして、なんで書く気になるのか、わからない。いや、もちろん、書くことは好きで、なんなら日記は頼まれてもいないのにここ三年くらいは毎日平均2000字くらいは書いている。でも、仕事となると話は別だ。そこには、何かしらの「仕事的な要素」があるのであって、好き勝手にこの前食べた鰻が美味しかったとか、あのカフェのアイスティーはなんか美味しいとか、天気がグッドである、とか。そういう何でもないことを書くことはできない。だから、同じ書くことでも、仕事的に書くというのは、やはり自分は追い込まれないとできない。

これをお仕事関係の方も読んでいるかもしれないので、念の為言っておくが、だからと言って、締め切りは絶対に破らないし、別にやっつけ仕事で適当に済ませているわけではない。むしろ、書くまでの時間に、じっと思索を重ねて、一気にさっと仕上げる方法を取っていると言っていい。

そういえば、昔、ロースクール時代の教員の人もこう言っていた。

「刺身を切るときは、ベタベタ触るな。さっと切るべき場所を切れ」と。

自分のスタイルは良く言えばこれに近い。さっと切った結果、間違えた場所を切ることもあるかもしれないけれど、基本的にはこのスタイル。書くまではぼんやり頭の中に置いておいて、さあ、やばいやばい、書かないと、となって初めて包丁を持って、一気にさっと切る。

もちろん、コトコトじっくりを試したこともある。美味しい煮込み料理を作るイメージで、仕込みから丁寧に、何度もアクを取り、火を加え、極上の煮込みにしようとしたこともある。でも自分はどうも、この方法を取っていい結果が出たことがない。

あまり大きな声では言えないけれど、ありがたいことに賞を頂いた作品も締め切り数日前に書き出して、バーっと一気に仕上げたものばかりだった。なので多分、純粋にスタイルとして、この刺身スタイル、あるいは、一気に火力で仕上げた方が美味しい中華料理スタイルの方が合っている、ということなんだと思う。

そういえば思い出した。自分とは真逆の事前に丁寧に進めるタイプの人に「なんで前もって仕上げることができるんですか?」と聞くと、大体「締め切りを破るのが怖い」「不測の事態があったら困る」「ピンチになってドキドキするのが嫌い」という答えが返ってくる。

さらに話を聞くと、即興で対応とか、追い込まれて仕事をするのが嫌だから、書き仕事をやっているという人すらいた。確かに。瞬発力ではなく、持続力で丁寧に仕事を進められるのは、書き仕事の良さかもしれないと思う。だからこそ、書き仕事の人は前もって進めるタイプの人が多いのかもしれない。

その上で、自分は、「ピンチやドキドキが好きなタイプなのかもしれない」と思う。書いている作品や作風は割と日常のゆったりしたものが多いけれど、自分自身の性格としては、確かに飽き性だし、せっかちだし、割と勢い任せの人生だったとも思う。

要は、「やばい、どうしよう!」というのも一つのドキドキワクワクだと感じるように、心の構造がなっているタイプで、昔から人前で話したりとか、何か試験を受けたりするのも好きなタイプだった。そう思うと、ピンチに強いというか、ピンチが楽しいタイプで、野球ゲーム(パワプロ)でいうところの「対ピンチ◯」がついているのかもしれない(その分、ここはチャンスだな、みたいなところをことごとく逃すけれど)。

そう、だから夏休みの宿題に戻ると、そういう性格なので、最終日になって泣きながら終わらせるというタイプではないし、終わらずに無視してやり過ごすタイプでもない。ギリギリまでやらず、ここでやらないとまずい、というところまで引っ張って、そこで一気にやって、スパッと終わらせるのが好き。書いていてやはり、ピンチを呼び込んでいる感じすらした。

……要するに人にはスタイルがあって、大事なのはスタイルを理解して、そのスタイルで生きていくのが大事な気がします、というだけの話でした。

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