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5.貯金法~現代語訳「金」by紋之助

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5.貯金法

貯金は富を得る最も確実な方法であり、遠回りの感じはあるが
決してこれを適当に扱ってはならない。
貯金の効能は長らく持続し、
その利益は最も顕著だから、
この方法を選択すべきだ。
その方法としては、私が考案した
不動貯金の方法によることが最良である。

5-1 三年貯金の由来

勤倹貯蓄の美風を我が国民に広めようとするのは目下の急務であり、
どういう方法が貯蓄の奨励に良いかは
今日最も研究すべき要務である。
私は、我が国民が貯蓄思想に乏しく、
これを他国の例と比べ、
天地ほどの違いがあるを見て嘆かざるを得ず、
この為に幾多の月日をこの研究に委ねた。
幸いにして私の苦心は空しく終わることなく、
ひとつの方法を考案するに至り、
これを自分が経営する不動貯金の営業の基礎とし、
三年貯金の勧誘を開始した。
いまここに「営業のしおり」の一節を掲げる。

5-2 なぜ貯金をしなければならないか

人には不測の事態がある。
病気、天災、死亡、
こういう不時の事態があった時、
他人の世話にならず、
家族を安全に養うだけの用意が必要である。
サラリーマンはいつ給料が途絶えるかわからない。
また、商人はいつ失敗するかわからない。
そういう場合には、少なくとも三年くらいは
何もしなくても差し支えがないだけの用意が必要である。
また、主人が亡くなった後でも三年の用意があれば
その間に遺族の自衛もできてくる。
もし全く不用意ななか、急なことがあったら、
それこそドーにもコーにも行かなくなって
たちまち、他人の厄介になるか、
悪い寂しい心を起して
自ら我が身を殺すような悲惨な境遇に陥るのだから、
一家の主人たるものは
あらかじめ不時に備える用意が肝心であり、
また、それは義務である。

5-3 生存競争は激しい

生存競争が激しい今の世の中は
友人も親戚もあったものではない。
万一の時に身を顧みてくれる者が何人いるだろうか。
この場合唯一の同情者となって
慰安を与え急を救ってくれるものは
諸君が忍耐と腕によって
生み蓄えた貯金のほかはないのである。
元来、貯金はやりにくいものではないが
ややもすれば怠りやすく、
また、忘れやすいから、
どうしても強制的に実行するほかはない。
貯金家と散財家の比は2対8である。
散財する者が8人で、貯金するものが2人。
情けないではないか。
8人の財布の中身は2人の財布に集まるのだから
富む者ますます富み、貧しい者はますます貧しくなるのである。
諸君は貯金と散財のいずれの道を行こうとするのか。
願わくは前者の道を行け。
貯蓄も一種の習慣である。
勉めて貯蓄心を養い、
その習慣に慣れればどんな散財家も貯蓄家となるのである。
昔から日本人は欧米人に比べて
辛抱が足りないのである。

5-4 辛抱が足りない

これは食べ物の関係もあろうが、
要するに激しやすく冷めやすい。
いったん貯蓄の勧誘でやる気になり
貯金を開始しても、継続ができない。
薄志弱行は我々のいつもの癖だから
貯蓄は普通のやりかたではどうしてもダメである。
そこで、一度預けたら必ず予定の期限までは決して出さない、
または出せないという覚悟の貯金法に限ると思い、
去る10年前、すなわち、明治33年9月に
本行の特色である「石の上にも三年貯金」を考え出したのである。

5-5 石の上にも三年貯金

その上で強制的集金制度を設け
預金者の心のたがを緩めさせないよう、
油断なく訪問集金をして
貯蓄熱が冷めないようにしたのである。
すなわち、この三年貯金と集金制度の両方が
相まって、初めて真の貯金ができるのである。
散る金も貯まるのである。

・・・・・


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訳者解説:
ここから先の記述は不動貯金銀行の「三年貯金」の宣伝になるので
割愛します。
しかしながら、

『金が出来てから』とか『金が余ったら』とか言って
三年貯金に加入しないのは、
貧鬼に憑かれている。福の神に憎まれている。

とか、今の時代では考えられないトンデモ営業トークが
平気で書かれていました。
こんな勧誘は当時としては普通なのでしょうか。
なかなか面白いです。

他には、

「余暇に読もうと思う者に読書の機会なし」
「蓄える気が無い者に貯蓄の機会なし」
「蓄えは人間万事の基である、と悟ったら明日へ延ばすな」


などの言葉もあり、
現在では廃れてほとんど使われないフレーズですが、
これも真実を突いた名言と言えるでしょう。

ところで本文中に出てくる「三年貯金」は
現在の定期積立預金のはしりと言えます。
事実、不動貯金銀行はこれで大きく成長しました。
この預金は毎月13円の積み立てで、
3年後の満期時は500円になると説明されていました。

私の計算では何と年利4.5%という信じがたい高利回りです。
これだったら私も喜んで預金したでしょう。

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「金」とは・・・
「金」とは、明治時代後期、現在のりそな銀行の前身である
不動貯金銀行を興した銀行家、牧野元次郎が著した本です。
およそ120年くらい前の書物です。
本書は、要するに、簡単に言えば
お金持ちになるためのノウハウが書かれているのですが、
驚くべきことに、その秘儀・秘訣は、
昔の今もほとんど何も変わっていないのです。

繰り返しますが、この本に書かれている内容は
現代でも十分に通用する内容です。
十分に読む価値がある本です。
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