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3.金儲けの秘訣~現代語訳「金」by紋之助

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3.金儲けの秘訣

何事にも上手と下手の区別がある。
その差は天地ほどあり、ただならないくらいある。
囲碁にも、本因坊のような名人もいれば、
井目(せいもく)に石を置き、さらに井目に風鈴を付けてもなお
本因坊に勝てない人もいる。
その階段・等級は非常に多く、さても多様な世界である。
囲碁のような1つの局面上ですら、
石を交互に置くだけなのにもかかわらず、
結果には雲泥の差が出る。
囲碁でもこのとおりなのだから、
各自が社会に立ち、勝負を争っているものの、
その巧拙の差は囲碁の比ではない。
すなわち、 舞台は広いし、役者は多い。
千変万化、虚々実々、誠に面白い見世物である。
金儲けが上手な人にロスチャイルドがあり、
バンダービルドがあり、紀文大尽があり、
河村瑞軒があり、平専、浅総があり、
安田善次郎、大倉喜八郎、古河市兵衛がある。
みな元手なしで事業を興した。一世の人傑と言うべきだろう。
どうしてこれが、秘訣なしにできようか。

我も人も、日夜、金儲けに必死になる。
抜け目なく懸命である。
しかして、巨万の富を重ねる者もあれば
財布の中身が空っぽの貧者もあり、
この金儲けが共に心を苦しめるのだが、
しかし、格差はこのとおりなのである。
どうしてこれが、秘訣なしにできようか。

3-1 金儲けの第一の秘訣

金儲けの第一の秘訣は、身体が健康であることである。
健全な心身は金儲けの第一の基礎である。
昔は貧者でも今は長者と言われる人の身体が
大抵健剛なのを見ても分かるだろう。
身体が健全でなければ勇気は出ない。
不健康な状態でこの荒れた社会に立ち、
人と勝負を争うのは甚だ難しい。
健全でなければ、争っても常に負けを取るのは
火を見るよりも明らかである。
身体の健全は心の勇剛を意味する。
心が勇剛でなければどのようにしてこの世に立てようか。
社会は我利私欲の集合体だから
心が弱いと生命を保つことすら難しい。
まして、商戦の渦中におけるチャンピオンならば
一層のことである。

多病を自慢する才子的な時代はとうに過ぎ、
実力を戦わせる時代へと変化した今、
時代は最も健全な身体を持った人を必要としている。
勇気と忍耐と機敏は、みな健全な身体に
宿るものであることを知らなければならない。

3-2 金儲けの第二の秘訣

第二の秘訣は、世を広く見ることである。
今は昔と違い、千里も一里の世の中だから、
一局部にだけに注目して
大局を見忘れることがあってはならない。
囲碁においても同じである。
一局部の勝ち負けにのみ眼をさらして
全局を達観する眼がなければ、
一局部においては勝利を得て良しとしても
大局において必ず失敗を招く。
人の事もまた、同じである。
小さく限られた世界の1つのささいなことにあくせくして
ついに上昇気流を伴わず、
終生小利に勝って大利を獲得する機会を失う。
憐れむべきことである。

世は日一日と進歩して、
昨日の知識は今日の知識とはならないご時勢だから、
世の進歩に遅れず、
文明の新事物に出くわしてもいちいち驚かず、
良くその妙味を咀嚼して、
その利器の利用を怠ってはならない。
広く世を見て、その流れをつかむ者は、
すなわち金儲けの上手な者である。
宇宙は大きく、天地は広い。
文明の進歩は早足である。
大局に眼を注いで、世界のどこで戦うにも
力量において不足がないよう覚悟せよ。
今の世の中では、・・・


今の世の中では、一地方で小利を得ていても
広い世界での勝負に参加すらできないようでは
その人物は語るにも値しない。
こういう輩を俗に「商界の落ちこぼれ」と言う。

世の進歩に遅れず、
世界のいたるところで勝敗を争う者は
真の商戦場裏の勇者である。

3-3 金儲けの第三の秘訣

第三の秘訣は、社会的知識を多く蓄積することである。
「知識は金を生む母なり」と知るべきである。
あわれ、人々は、金のためにしょっちゅうあくせくしている。
「我利私欲の会」の組織に関わっている。
この不完全な社会に住む人々よ、
世界の荒れ地は人情とは反対の世界であると悟らなければならない。
この人情反覆の間にいながら、
泰然として動かず、
毅然とその難所を切り抜けようとするには、
まず人間世界の妙な組織と
不道理な作用の感触をきわめなければならない。
人の悲しむ心も、笑う心も、喜ぶ心も、
一見でその奥底までをたちまち見極める神通眼である。
単純な思想と一辺倒の道理は、
しばしば人情と衝突し、常に失敗を招く根本原因である。
経験が浅い若者が初陣で失敗するのが良い見本である。

まず人について研究せよ。
彼が笑うのは、心の底からにおかしくて笑うのだろうか。
おかしくなくても、一種の野心が心にあるために
大笑いする場合がしばしばあることを知るべきである。
彼が喜ぶのは、喜ばしいことがあって心から喜ぶのだろうか。
喜ばしくはないが外面を飾ろうとして喜ぶふりをする者がある。
彼の悲しみは、果たして真実の悲しみだろうか。
心では喜んで、世間へのお世辞で悲しむ者がある。
表裏の反目は人情の常である。
真面目に世の事を観察するのは良いが、
これを知らないと失敗し続けることになる。

次に、社会について研究せよ。
社会の進歩は複雑を意味する。
進歩した社会は複雑な社会である。
この進歩した、この複雑な社会に
勝負を挑もうとするものは、
まず社会に存在する規則と、
機関と、運用の方法を知るべきである。
しかるに、これを良く知る者は少ない。
これを知らなくてどうやって勝利者になれようか。
社会の規則を知らなくて社会人にはなれない。
社会の規則を知らなくてこの世に生きる人は、
知らない土地を歩くようなものである。
東西南北がわからず、行き帰りの道もなく、
ただ岐路をさまようのみ。憐れである。
例えて言えば、闇夜に提灯なしで道を歩くようなもので、
鼻をつままれるのも分からず、
手探りで歩を進めているうちに
溝に落ちて大怪我を招くようなものである。
愚かである。
敵国と戦いを始めるには、
まず敵国の人情風俗と地理をわきまえる必要があるのと同じで、
およそこの世に立って勝敗を争おうとする者は、
人事に関する一般法則をわきまえて
ゆめゆめ抜かりがないようにしなければならない。
人に対し、過ちがないようにする用意は、
自分の生命財産を保護する最強の利器と言うべきである。
その利はや護身刀やピストルの比ではない。

社会に存在する諸々の機関、組織、運用法を知る必要があるのは
社会に生きる人なら誰でも異議を唱えないところである。
案外、世間は愚かなもので、
世の進歩について行かず、そのために
新しい事物を理解しない人は甚だ多い。
自然と社会に知れ渡ってから
ようやく新事物を認知するくらいの程度である。
進んでその由来や作用を研究し、
もって他日の計画に役立てようとする者は極めて少なく、
その数は夜明けの星の数ほどとも言おうか。
このような姿勢で世界の全局に立ち、
世界の人と勝負を争うことは
そもそも無理だ。
近い将来、東の隣人にフランス人が住み、
西の隣人にロシア人が住むような時代が来る。
深く心に留めて注意しておかないと、長年の悔いになるだろう。

社会に存在する諸々の機関を知らないことは、
汽車、汽船を知らないで
昔のように籠に乗って道中を旅するのと同じである。
社会に存在する諸々の組織を理解しないことは、
例えば大阪に送金しようとして、実は簡単な方法があるのに
わざわざ危険な思いをして旧来の飛脚に託すことと同じである。
愚かであると言わざるを得ない。
また、不可抗力の危険、
すなわち天災地変の万一の災難を防ぐのに、
保険があることを知らないで、
ただ天に運を任せる馬鹿者がある。
愚かであると言わざるを得ない。

世の人よ、社会に存在する諸々の機関と組織を理解し、
かつ、その運用方法の熟知を怠ってはならない。
万事、自発的に行動してほしい。
自発は成功を意味する。
すべての成功は自発に付いてくるものだから、
その心得をもって、
率先して社会の組織を運用する気概が必要である。
思うに、社会に存在する諸機関の組織と運用とを知らずして、
常に受動的、他働的に動く者は
常に人の後ろへと落伍して終生浮かぶ瀬がない。
私はこの輩を称して
「商界の情弱者」と言うべきか。

4-4 金儲けの第四の秘訣

金儲け第四の秘訣として最も大切なことは
時間と労カを空費しないことである。
時間と労カは金銭と同じである。
時間と労カを空費するのは
すなわち金銭を無益に費やすのと同じである。
金銭を浪費するのは、人はみなこれを忌む。
しかし、時間と労カの空費をそれほど気にしないのは
いまだに時間と労カを
金銭と同じと見ていないからである。
時間と労カは金銭を生む母である。
金銭は時間と労カの子供である。
子供を得るにはまずその母を求めなければならない。
そして母たる時間と労カはもともと限りがあるから
うかうかしていては、捉えることはできない。
努めてこれを捉えよ。

人間の一生は朝露に等しい。
幸いにして五十の寿命を保つとはいえ、
その短い月日で何ができるだろうか。
しかし事を成すことができないからと言って
単に、その短い月日のせいにしてはいけない。
天地の寿命の長さに比べれば五十年は誠に短い。
しかし、良く覚えておくと良い。
およそ人がやる事業は何の事業でも
この五十年の歳月をもって成就するのである。
もしそれを五十年をもって事を成すのに足らないとするなら
千万年の時間があっても成就しないだろう。

長命な人の過去を回想すれば
一生は茫として夢のようである。
しかして、その夢の中で、
ついに何も成就できなかったことを悟るのである。
まず試しに、過ぎ去った過去を考えてみよ。
諸君の一生は、
無益に費やした時間と労カがいかに多いことよ。
君が無駄に費やした時間と労カが
君の一生の大半を占めていることに気が付くだろう。
だから君は「一生が短い」と感じるのであって、
これがすなわち、
君の一生が何も成していない理由なのである。

時間は一度過ぎたら帰らない。貴重で大切なものである。
試しに、1日に空費する時間がどれだけ多いかを
計算してみよ。
何人も、1日5時間以上は空費している。しない者は稀である。
1日に空費する時間が5時間くらいで済めば、
その人は勉強家のほうだろう。
相応の食事時間、休息時間、睡眠時間は
あえて空費時間とは言わない。
これは生命を維持する必要時間だからである。
私が「1日の中に5時間以上の空費あり」というのは
労働すべき時間中に存在するということを知るべきだ。
胸に手を当てて、まず一日の中でやったことを考えて見よ。
友人との空談のために費やした時間はないか、
何の効果ももたらさないことに費やした労力はないか、
妄想のために思いを焦がした時間はないか。
ある。大いにあるだろう。
私は今、仮に大まけにまけて、
1日の無駄時間を5時間と定めたとしよう。
すると、1年間の総無駄時間は1,825時間である。
また人生50年間の無駄時間を計算すれば
実に91,250時間となる。
日に直せば約3,802日である。
年に直せば約10年余りである。
一生の空費時間の何と大きいことか。
しかしてこの10年は全く労働可能な時間なのだから
これを有効に使えば何かしらを成すことができる。
手に唾をして、成功を目指すべきである。
さあ!さあ!
事を成すことができないのを単に短い月日のせいにするのは
どこの横着者だ。

10年の労働時間を得るには、
31年以上の歳月を経過しなければならない。
その理由は、1日の労働時間を8時間と定めて計算したことによる。
果して、そうだとすると、勉強する人は不勉強の人よりも
総じて31年の長命を得たのと同じ勘定になる。
愉快なことである。

上記の計算から推論すると、
人生はいたずらに長命なだけが能ではない。
要はただ時間を空費しないようにするのみである。
人は生まれて1分でも無駄に費やさず、
良く努力すれば、
例えば不幸にも短命にして30年で死ぬとしても
成した事業は普通に50歳の人が成した事業と少しも変わりがない。
時間を無駄に費やさずに有効に使う者は、
短命にして短命ではない。
時間を無益に費やす人は
長命にして長命ではない。
時間を節約して良く努める人は、
短命であっても、長命を保ったに等しいと言うべきである。

無駄に時間を費やさず、
幸いにして50の寿命を保ったとすると、
その人の成した事業は
86歳の寿命を保った普通の人と同じである。
86歳の時間は決して短いものではない。
時間と労力を最も有効に使う限り、
何かは成すことができる。

早世する者の何を悲しもうか。
要は、ただ時間と労力を無駄に費やないことにある。
いたずらに年を重ねることのみをもって
良しとしてはならない。幸いとしてはならない。栄誉としてはならない。
大観すれば、
この輩の生命は年数的には良く長命を保っても
その生命や事業を成す上では
すでに死んだものというべきである。
死んだ心身が世のために
何の利益をもたらすのであろうか。
無駄なことに1分の時間も費やしてはならない。
無益なことに一片の労力も尽くしてはならない。
総じて、汝が一生は、
何事も有効に費やすことを忘れてはならない。
時間と労力を経済的に費やすのは
すなわち事業を成すためであり、
金銭と幸福は、求めなくても来るものである。
金儲けの秘術はこれを置いて他にない。


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訳者解説:
ここに書いてあることはまったくもって真実です。
深い感銘を受けます。

本文中にあるように、
「広く世を見て、その流れをつかむ人」は「お金儲けの上手な人」です。

近年はビットコインのような暗号資産が何かと話題になりますが、
ビットコインの資産価値は2021年2月には600万円を超えました。
私がビットコインの存在を知った時点では40万円ほどでしたが、
それでも不勉強だった私は、
ビットコインのことを
オランダのチューリップの球根程度のものと考えていて、
この海のものとも山のものともつかない代物に
投資する気にはなれませんでした。
ところが、ブロックチェーンの先進性にいち早く注目し、
価値を認めた人は、
英語圏でなければまともな文献すらなかった頃から
自分でプログラミングを学んでウォレットを構築し、
少しずつコインを積み重ね、今や億り人となっています。
「知識は金を生む母なり」の典型例でしょう。

このように、お金儲けの秘訣は何かといえば、
それは120年前も現在も、少しも変っていないのです。

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「金」とは・・・
「金」とは、明治時代後期、現在のりそな銀行の前身である
不動貯金銀行を興した銀行家、牧野元次郎が著した本です。
およそ120年くらい前の書物です。
本書は、要するに、簡単に言えば
お金持ちになるためのノウハウが書かれているのですが、
驚くべきことに、その秘儀・秘訣は、
昔の今もほとんど何も変わっていないのです。

繰り返しますが、この本に書かれている内容は
現代でも十分に通用する内容です。
十分に読む価値がある本です。
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