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メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集【猿】を読んで。

 この物語について、これはこういうことなのだろうと言葉にすることに躊躇を覚えます。僕は物語のすべてに意図や意味を見出そうとすることについて、あまり歓迎的ではありません。生きた世界について口にした途端、僕の拙い言葉による狭く限定的な意味に落ちてしまう気がするからです。本当はもっと物語の抽象性を表したかったにも関わらず、言葉ではうまく言えないことがままあります。でもそれって至極当然な気がするのです。物語の空気感やこちらの胸に触れてくる何かって、その物語が醸す何かであるからできることで。とまあ、この物語もその手のものだと僕には思われたのです。そういうわけですので、僕は物語の内容と流れについては、触れずにそのままにしておくことにしました。

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始まりの「****」から終わりの「****」の間に、この物語に対して感じた抽象を言葉にしようと努めてみました。しかしうまくいかずに削除するに至りました。やはり物語の体を成すそれ全体から匂い立つものを、物語のぐるりにおいてのみ語るといえども、並べた言葉は見慣れたもので、読むと「ああ、それのことね」で終わってしまうような、切実を欠く言葉の羅列にしかならなかったのです。
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 いずれにしても、根底に枯渇せぬ愛情があって、しかしその表出の悲しさがあり、そしてその表出を見つめるとき、またその出どころである愛情を見つめざるを得ず、するとまた物悲しくて。と、人生の夕べ、どこまでもどこまでもそれは、美しくも悲しいのでした。

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