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メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集【黒と白】を読んで。

 本作は今年の始め、某社の文学新人賞へ応募した作品のモチーフと共鳴している点があり、相通ずる気質と経過をまた別の視点から表現されるその全体に勝手な親近感を抱きました。
 しかしその同調する見かけよりも、もっと僕の関心を惹きつけたものは、男女というものの表現でした。それも、それ自体を標語のように掲げる仕方ではなく、もっと強烈な方法、つまりさらりと紛れ込ませるという筆致にて。
 ドミナントカラーは白ではなく、どうして黒だと思ったのだろうか。もしも、妻にドミナントカラーは黒だと言われていたなら、彼は白だと言いはしなかったのでしょうか。彼は妻を本当に愛していただろうと思います。それはあくまでも彼のやり方で。しかし、それにはやはり『文化背景的男性』が練り込まれているのでした。そうすると、愛の言葉が、何やら弁解がましく響くのです。
 彼は大きな仕事を得ました。それは彼のモチベーションとなり、動力源となったに違いありません。しかしもう一つあるように思われるのです。それは彼の自尊心ではないでしょうか。妻への嫉妬があり、助言を受け入れることが出来ず、ドミナントカラーの白を引きずっていることは手紙からも窺えます。自分の主張が正しかったのだと信じたいし、正しいと妻に分かってほしいといったように。しかし妻はそのような彼の何をも否定しません。我が家であり彼女の作品であるガラス張りの建築に仄かな難癖を付けられても嫌な顔ひとつせずに、彼に前向きな対応策を提示し、準備を取り計らったのです。そうしてこの物語は、あのような結末に至るのでした。
 創作の狂気性というのは物語になり得るテーマだと思います。しかしこの物語の中でのそれは起承転結の横軸に過ぎず、ところどころ紙面に滴り滲んでいる古くからの男女というものに、とても感ずるものがあったのです。そのことがタイトルに象徴されています。

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