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スペイン人から和食を習う〜食べる側の民と作る側の民編〜

スペイン人(カタルーニャ人)から和食を習う日々が始まった。
経緯はこちら↓

シェフは大きなハグで出迎えてくれて、センスの良い紺色のシェフコートと黒のエプロンを渡してくれた。
「いいかい、一品一品どの料理を作る時も味見するんだよ。味見はとっっっても大事だ。味見なしには僕らは死んだも同然だからね。
だからいつもここにスプーン、いや、君の場合は箸か。を入れておくんだよ」
と私のエプロンの胸ポッケにスプーンを挿した。

始まるやいなや、料理人として働いたことなんかない私に、シェフは味見をさせまくった。

「このサフランソースどう?」

「このアジのフライとピリ辛ソースを合わせてみたんだけどどうかな?」

「これ昨日とったばかりのお出汁。どう?」

家以外ではもっぱら食べる側の民として生きてきた私は、胸ポッケのスプーンをキラーン!と取り出し、考えてる風の真剣な表情をキープした。

「モグモグ。おいしぃですぅ。モグモグ。」

"こんな美味しいもの味見しまくれるなんて良いんですか。最高だぁ〜。"
と内心では思っていた。

全部おいしいです⭐︎((o(^∇^)o))
なんていうコメントを連打しそうになっていた時、幸いシラフに戻って気がついた。

そう。シェフは”美味しいかどうか? Yes or No”ではなくて、
“どうだ?”
と聞いているのだと。

美味しいです。完璧。過不足無し。なのか、
甘みが強すぎる。なのか、
この魚の食感ならこのソースの方が合うなのか、
これは温めるより常温でサーブした方が良い、なのか。

今までは食べる側の民だったので、
美味しいなぁ〜とか、うーんイマイチ。くらいで終われていたが、
作る側の民はそうはいかないのである。

美味しいけど、何か足りないんだよな。なら、
その足りないものが何かを探し出さないといけない。

んーなんだかこれとこれがうまくマッチしないな。なら、
じゃあ何となら合うのか考え出さないといけない。

そっち側の世界にやってきたのだ。


私は料理人では無いし、
日本人ではあるけれど素人としての意見しか出ないのが申し訳なくて、
そんなことをゴニョゴニョ言っていたら、私の目をまっすぐに見て言った。

「うちは日本の懐石料理にインスパイアーされた創作料理屋だけど日本人スタッフは君以外に居ない。君が料理のプロではなくても、僕にとっては君の意見は日本の味、和食の大事な指標だから、感じたまま正直な意見をシェアして欲しい」と。

!!!日本を背負っているぜ!!!

長野 車山高原の雲海


というおバカな反応はさておき、まぁそりゃそうかと納得。

同時にそんなに気負わなくても良いと思えた。
なぜなら幸い、大阪での商社時代に"美味しい"の芯の部分を習ったからだ。

舌の肥えた先輩たちは高級なグルメではなくて、さりげなくまっすぐに美味しいものを作る店の数々に連れて行ってくれた。

路地裏の小料理屋。小汚いけどいつでも旬を感じる小鉢ものが揃っている居酒屋。
サーフィン帰りに立ち寄る高知や三重の鮮魚の美味しい定食屋。高層ビルの片隅にある小さな蕎麦屋。

元バンドマンらしきおじちゃんが作るおかずの色彩使いが神ががっていた半地下のマクロビオティック店などなど。

からし蓮根。日本酒の美味しい居酒屋で

この世にはこんなに美味しいものがあるのか。とシンプルに驚いたし、
その味の記憶、経験値は今でもしっかりと残っている。


またその商社で私は輸入メンバーだったけれど、
輸出チームはマクロビオティックをベースにした日本の伝統調味料(今でも伝統製法で作る製造元さんが多かった。例:木桶醸造の醤油)を取り扱っていたので、
醤油・味噌・酒・みりん・酢・乾物・海藻・梅・葛・胡麻に代表する本物の調味料の味や、その作り手さんの背景に触れてきた。

宮崎 伝統の屋外甕仕込みの黒酢

美味しい食材と調味料があれば余計なものは足さなくて良いことを学んだ。



日本に一度も行ったことのないという日本行きを切望するシェフの料理は、
あさるように読んだ和食本の数々とバルセロナにいる日本人師匠の教え、
何より彼の和食、特に懐石への飽くなき探究心と情熱でできている。

この地カタルーニャの食材や調理法と共に自由自在に遊ぶように表現しながらも、
一品一品のどれもに、そのどれもに和の基礎、芯の部分を感じる懐かしい味がする。

Cualquier restauranteではなくて"El restaurante"だからこそ、
(日本語訳:唯一無二のレストランだからこそ)
このチャンスを逃してはいけないとばかりに、
私は前のめりで雇ってくださいと言ったのだ。

私に無いものばかりを心配するのでなく、
すでにあるもの、できるものに目を向けよう。
頭を柔らかくして見つめてみたら、意外とあるもんだ。

ポジティブに気を取り直して、
今日も胸ポッケのスプーンを取り出し、
眉間にシワを寄せてみながら、
この味は"どうだ"ろうかとアタマと舌で考える。

(形から入る派)

つづく

#Bloom your potential 
#Food and farm
#Japan and the world

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このnoteではスペインでのへっぽこ山奥生活を通して、
以下のようなお題について書いてみようと思います。

・Self care 自分の取扱説明書を持つことについて
・Bloom your potential 得意を活かすこと、自分の可能性の伸ばし方
・ Food and farm 私の生活を豊かにしてくれる食べ物や畑のこと
・Japan and the world 違う考え方、言語、人、食べ物を知るって楽しい。日本と海外それぞれから学ぶこと
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