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【短編小説】街を廻せば③

俺は自分の2度目の死を悟り
過去を思い返していた。


あの時は幸せだったな。
嫁と娘と暮らしてた頃、全てが幸せだった。


幸せだった思い出が走馬灯のように頭に流れてきて少し涙が出そうになった。



1人感動しているのも
束の間、急に爺さんに胸ぐらを捕まれた。


「戦う気がない若造じゃ話にならん。
ワシはまだまだ若いということを証明したいんじゃ!若い奴と戦わせてくれ!」


胸ぐらを掴まれて離せない。
老人にしてはすごい力だ。



「いや、爺さん。
俺も別にそんなに若くないよ。
そして、すごく怖がりでとても弱い。
おまけにどうしようもなくお金がない。」


ん?待てよ。

若くて血気盛んな奴いるぞ。







俺は爺さんを路地裏に連れてきた。

「爺さん危なかったら逃げていいからな。」


「バカ言え。ワシに逃げるなんて言葉はない。」

爺さんは
路地裏で青年をカツアゲしている
柄の悪い男に勢い良く
掴みかかりパイルドライバーをしてみせ男をノックアウトさせた。




パイルドライバーってことは、
この爺さん、あの婆さんの旦那かよ!


「爺さん、あんた何者だよ。」


「昔、夫婦でプロレスラーをしていたんじゃよ。でも、婆さんに最後パイルドライバーをかけてから最近プロレスをしてくれなくなって寂しんじゃ…だからこうして戦う相手を探してるんじゃ。」


なるほど。

婆さんはおんぶして欲しかったのに、
この爺さんが勘違いして
パイルドライバーかけたのか。




爺さんは満足したようでお礼を言って
男を警察に連れていくと引っ張って行った。





「…あの、僕もありがとうございました。
あなたは僕のヒーローです!」


後ろから青年が話しかけてきた。


「俺は何もしてないぞ…
まぁ、もう2度とカツアゲされないように気を付けなよ。」


「はい。たまたま大金の入った財布を拾ってしまって、その瞬間を見られたようで、カツアゲされたんです。」


財布?
もしかして、この財布はあの鬼女のじゃないか!


「青年よ!それを持ってついて来てくれ!」








四つん這いの鬼女の所へ向かった。


財布の中身から写真付き身分証を取り出し
本人の財布か確認した。


写真越しでもわかるほどの
恐ろしい形相である。


むしろ写真のほうが怖い。
夢に出てきそうだ…


青年は写真を見て
恐ろしさのあまり腰を抜かしていた。


間違えなくこの人のだな。

俺は鬼女に財布を渡した。


鬼女は財布を力強く奪い取って
中身を確認した。




「財布の中身は1円も盗まれてなかったわ。

ありがとね。助かったわ。」


お礼を言った瞬間、鬼の顔が聖母のような美しい笑顔に変わった。


ずっとその顔でいてくれ。
と思ったが、
一瞬でまた鬼の顔に戻っていた。


「あんたらが財布を見つけてくれなかったら、さっき見つけた高そうな指輪を質屋に持っていくとこだったわ。」


「あ!その指輪はもしかして!?」









鬼女から指輪を預かり
今度は手品師男の所へ行った。


「うあー!間違えありません。
これは僕の結婚指輪です!!」

手品師男はあらゆる所から鳩を出して喜んだ。


「お礼に僕のとびっきりの手品を見てください!」


「いや、悪いが時間がないから大丈夫だ。」


断ると手品師男は残念そうに
手品グッズを片付けようとした。


片付けてる最中に
俺のお尻から小さな花を手品で出してきてイラっとした。



「ん?ちょっと待て、それなんだ!?」

俺はある物に気づいた。


手品師男はスティックを手に持っていた。

「お!お目が高いですね!
これはすごいですよ。
伸びたり縮んだり曲がったり自由自在!
しかも、丈夫なんです!」


「それ貰えないか!?」


「まぁ、今日のプロポーズには使いませんので良いですけど。」










スティックを貰い
杖が折れた婆さんの待つ所へ行った。


婆さんは公園のベンチに座って待っていた。


俺はスティックを曲げてちょうど良い長さにして婆さんに渡した。

ついでに爺さんは
おんぶじゃなくてプロレスだと思って
パイルドライバーをしたことを教えた。


「こんな、ハイカラな杖をくれるなんて
ありがとね~。
帰ったら爺さんを叱っとくよ。」


ふと、婆さんの膝元を見ると
猫が寝ていた。


婆さんは手招きしてた時と
同じような手つきで猫を撫でていた。

気持ち良さそうだ。


「ん?婆さん、その猫は!?」


「この猫は私が座ってたら懐いて寝てきたのや。」


「お前はヘモグロビン=インシュリン=ナトリウム=ケツアツ178世じゃないか?」


猫はその通りだと言わんばかりに
ニャーと元気良く返事をした。










俺はケツアツ178世を抱えて
あの若い女の元に連れてきた。


女は喜んでいた。
「当分ケツアツ178世と会えなくなるところだったから。
見つけてくれてありがとう。
安心して親戚に預けられる。」


「どこか遠くに行くのか?」


「そんなところ。
オジサン良い人だね。」


彼女は満面の笑みを俺に向けた。


これだけでも今日頑張った甲斐があると思った。










人生で1番疲れる日だったが
ようやく肩の荷が降りた。


全員を幸せにした。
これで俺は明日も生きられる。

くたくたになりながら
家路に着いた。



カギを開けてドアノブを回そうとすると
後ろに視線を感じる。






振り向くとフードを被った何者かが
包丁を持っていた。





おかしいだろ…

なんでだよ!?

全員を幸せにしたはずだろ!?









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