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【短編小説】街を廻せば④

みんなを幸せにしたはずだ。

なぜ俺は殺されるんだ?


猫を探す呪文女
杖が折れた魔女婆
プロポーズができなくなったドラキュラ男
財布をなくした鬼女
カツアゲされた亡霊青年
プロレスしたくてたまらない河童


全員助けたはずだ。





そう、全員…





そうか…


1人だけ忘れていた…



俺を刺した犯人も
幸せにしなければいけなかったのか。




でも、この状況でこんなヤバイ奴
幸せにできるのか!?





そもそも、誰なんだ!?




俺を恨むような奴と言えば…。








元嫁か…。



確かに彼女なら俺を殺したいほど
恨んでても仕方ない。



借金以外は全てを捨てて
逃げるように離婚したんだ。


彼女は、たった1人で娘を育てたんだ。



どれだけの苦労があっただろう…


殺されて当然だ。



どんなに頑張っても
俺は彼女を幸せにすることだけはできない。


ただ俺を殺すのが彼女で良かったのかもしれない。


それなら諦めがつく…





俺は潔く腹を差し出して
今度こそ死ぬ覚悟をした。


だが、犯人は俺の覚悟とは逆に
包丁を地面に落として泣き崩れた。





「…嘘ついてなかった。」






嫁の声じゃないぞ。





「…お母さんの言ってたこと本当だった。」






俺は泣きじゃくり何かをぶつぶつ言う犯人のフードを外した。







「…なんで、あんたが?」








犯人は猫を探していたさっきの女だった。



「私はお母さんから聞いて。
ろくでもない父親の住所を聞いてきたの。


そしたらそこに猫を探してくれたオジサンがいた。」




俺は少し冷静に頭を整理をした。


「父親が居ると言われた住所に行ったら
俺がいた…


…え?



っていうことは、猫を探してたあんたは
つまり、俺の娘だったってこと?

そして、俺を殺そうとした犯人は
俺の娘だったってこと!?」


娘とは、20年近く会ってなかったから
全くわからなかった。


「…そう。本気で殺そうと思った。殺そうとした。」


それは知っている。
一度本当に殺されたからな。


「そうか、娘も俺を恨んでるのも当然か。


母親に俺を殺せって頼まれたのか?」




「違う!お母さんはそんな人じゃない!

お母さんはどれだけ大変な思いをしても
お父さんのことを恨まなかった。

お父さんは本当は優しくて良い人だって…
ずっと言ってた…」




そうだったのか…

知らなかった。


俺は最低だ。


彼女は俺のことをずっと信じてくれていたんだ。
なのに、俺は逃げた。
逃げ続けた。


恨まれてると勝手に思って
会おうともしなかった。


謝りたい。

もう一度会って謝りたい。



「お母さんは元気か?」









「…昨日、病気で死んだよ。」



俺は言葉を失った。


…嘘だろ。



「お母さんの最後の言葉も
お父さんは本当は良い人だから恨まないでね、だって。

私は信じられなかった。


お母さんはお父さんに騙されたまま死んだんだって。


許せなかった。


だからお父さんを殺してやろうと思った。





…でも、本当に優しくて良い人だった。


猫を探している途中
色んな人を助けてるオジサンを見てた。


優しくて良い人だなって思った。



そのオジサンが私のお父さんだった…



お母さん、嘘ついてなかった。
ずっと本当のこと言ってた。」




俺は立つことができなくなるほど
うずくまって泣いた。


久しぶりに会った娘の前だというのに
情けないほどに泣きまくった。




そして、今になって気づいたことがある。


天の声の
あのふざけた喋り方と
あの優しい声は
間違えなく俺の大好きだった彼女の声だった。


なんで気づかなかったのだろう。


俺は本当に馬鹿野郎だ。


彼女は死んだ後も
俺のことを最後まで信じてくれていたんだ。









しばらくして、
またいつものように町を歩いた。



魔女婆さんと河童爺さんが
仲良くおんぶして歩いていた。


ドラキュラ男が街中で結婚式を開いているのを見た。
相変わらず来場者全員の頭に手品で花を出していた。


鬼女が一瞬だけ聖母のような顔になり
募金箱に札束を寄付していた。


亡霊青年が震える足で
柄の悪い男と戦い
カツアゲされている中学生を助けていた。





俺は嫁の墓の前に着き線香をあげた。

できることなら
嫁と暮らしていたあの頃に戻って
やり直したい。



でも、彼女はあの時言っていた。



やり直しは1度だけだと。




時間のやり直しはもうできない。


ただ、人生のやり直しなら
生きている限りいくらでもできる。



「君にもらった人生、後悔なく生きてみせるよ。」




遠くで娘が
ヘモグロビン=インシュリン=ナトリウム=ケツアツ178世を抱えて手を振っていた。




雲の上の彼女が笑っているような気がした。










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