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【インタビュー】アーティスト・栗原亜也子:私はここにいる_2

京都市上京区にある現代アートギャラリー HRD Fine Artでは、2020年10月10日(土)より、栗原亜也子個展 <I Am Here, There and Everywhere: Mind Games 2020>が開催される。 横浜を拠点に活動する栗原氏は国内外でオセロを用いた作品群を制作・発表してきた。今春アトリエにこもって制作された大型作品についてや、その間活発に行ったSNS発信に込めた思い等、ステイホーム中の様子を語っていただいた。

インタビュー①はこちらから

他にも『エア在廊』と称して横浜のアトリエと展示会場をつなぎ、オセロ対戦も企画されています。
遠隔に焦点をあてた企画がある一方、やはり展示のメインとなるのは大型の絵画作品。全長15メートルあるグリッド柄の反物を用いた、巨大なオセロ作品です。

栗原「布の作品のいいところは、持ち運びが簡単なこと。また、無くなれば継ぎ足し、継続していけること。引きこもって制作することもできるし、誰かを引き入れたいと思ったら対戦することもできる。今は横浜のアトリエで制作していますが、県や国を超えたプロジェクトに育てていきたい、と思っています」

こちらは今年3月に静岡県で開催された〈UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川〉の参加後、拠点である横浜のアトリエにこもる生活の中で制作されました。

栗原「大井川の展示でアウトプットしきって、そこから気が抜けるというか、ダウンしていくだろうな、というのはこれまでの経験からある程度予想できていました。そこへきて自粛ムードが高まって。私としては全然辛くない。ステイホームOK、これで世間に対して堂々と引きこもれる、という感じでした」

その後、5月からはインスタグラムにて制作風景を精力的にアップし始めます。

栗原「大きな布を前に、自分対自分でひたすら白と黒を埋めていく。何かを考えることもあれば、無になることもある。また、遠くに手を伸ばすことで、体の隅々にまで意識が行き渡り、舞踏のような、観客のいない身体表現のような側面もある。それに二つのカメラを用いて撮影・記録していて、一回一回シャッターを押すので、結構忙しいんですよ」

写真には作品だけでなく、制作風景の一場面として自身の姿もよく記録されています。服装のスタイリング等にもこだわりが見られ、アトリエにこもりつつも、他者とのつながりを模索しているように見受けます。

栗原「ぶっちゃけ、自粛中なんて一日中パジャマで作業しててもいい訳じゃないですか。でも、これ以上太ったらやばいとか、美容院行かなきゃとか…少しでも人の目を意識せざるを得ない状況を作りたい。そう思ってインスタをアップしていました。作品のジャンルとしては抽象絵画になるので、完成した作品の中に自分は入っていない。だけど明らかにそこには描き手がいる。二色の丸で構成された作品は、オセロゲームのルールに基づいた過程がある。そういった抽象の中に人が介在していること、必ず私がいるということを、日常の生活を織り交ぜつつ、インスタで日記のように発信していきました」

「個」としてのアーティストの作品に介在する「他者」の存在。「引きこもっていたい」と言いつつも、自身の存在を外へむけて発信し続ける姿。作品の中に、そして作者の中にも相反する事象が同居しています。
今回の展示に際した声明では、他者と「ふれあいたい」と思う気持ちと同時に「自分の中に引きこもっていたい願望」を明言しており、個人的にとても心に刺さりました。わざわざ言語化すること自体稀ですし、それ以前にそういう願望があっても無自覚な人多いのでは、と思ったからです。

栗原「デフォルトとして引きこもりたい自分と、社交的な自分がいることは普段から意識しています。でもなかなかそれを公言できない雰囲気というのはあると思うんですね。
特にコロナ禍以降、『コロナが落ち着いたら会おうね』というような、人と会うことがフォーカスされている。人との触れ合いを太陽とするなら、みなが太陽を求めている。だけど、今はうまくいかなくて暗いところにいるよねっていう、そんなイメージがずっとありました。
私自身のこもっていたいという要素を、口に出して言っていきたいな、今はそのチャンスなんじゃないかな、と思っています」

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展示のあり方、社会とのつながり方、個人や社会レベルで抑圧されていた様々な問題…
新しい時代はこれまで見過ごされてきた細かい事柄も含め、世の中全ての事象に深いレベルで見直しを迫っている。
栗原氏の「引きこもっていたい自分」への言及は、まさしくそんな時代の動きに押し出され、表出される形となった。実際はこれらの意識が作品となって現れてくるまで、もう少し待たなければならないが。ともあれ今回の展示は、アーティスト個人やギャラリー運営の側面から見ても、また社会的な側面から見ても、色々と新しいものが含まれていることを予感させる。本展を通じた、新しい視点、発見、出会いに期待したいと思う。

写真は栗原亜也子インスタグラムより。アーティストの承諾を得て使用しています。 https://www.instagram.com/ayakokurihara/?hl=ja
展示詳細 : HRD Fine Art ホームページ


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