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焼き椎茸のバタポンと、日本酒

呑みたい気持ちを紛らわすために、お酒とアテのことを想像しようと思う。

私は、何かアテが無いとお酒を飲めない……訳では無いけど、アテがあってこそ、心からお酒が楽しめる人間だ。
私の中で、お酒とアテは、切っても切れぬベストパートナー。だから、お酒のことを考える時は、美味しそうなアテのことも考える。

丁度今日、職場の人から採れたての原木椎茸を頂いた。

原木ッ!なんと蠱惑的な響きッ!

菌床も美味しいが、原木は香りが断然違うのだ。椎茸の濃い湿った上質な香りが、鼻の中をまとわりつきながら通り抜ける。そして肉厚な食べ応え。

焼いて、醤油を垂らしたところに鰹節も良いな。すだちを絞って醤油も素敵だが、すだちが無いなぁ。通らしく塩で食べようか?
いやいや、今日はバターポン酢で頂こう!

食べ方は決まった。
洗わずに汚れを落とすのみで、早速グリルで焼きはじめる。
焼きながら、せめて気分だけでもとシークヮーサージュースの炭酸割りを作る。虚しい。

本当なら、叶うのなら、ここは日本酒を飲みたいところ……。

一昨年の陶器市で買った、兎の絵付がしてあるお気に入りの徳利とお猪口で。
季節的にも、徳利の素材としても、本来ならば熱燗が良いのだろうが、冷酒が好きなので構わず注ごう。
日本酒は何が良いかな。と言っても、全く詳しく無いので、過去に飲んだ中で今飲みたい物にする。今夜は三重県の「作」にしよう。
焼き上がったところに、バターをのせる。じんわりと溶けかけた上から、ポン酢をほんのひとたらし。濃い香りの湯気と共に上がってくる、バターの甘い香り。

椎茸から齧ろうか?いや、我慢できない。やっぱりお酒を飲んでから!

徳利の口から、透明の筋がお猪口に注がれる。早く飲みたくて思い切り傾けたいところだが、焦ってはいけない。丁寧に注いで、丁寧に頂こう。
十分目強に注いで表面張力の美しさを眺めたいが、不器用なのでやめておく。八分目に注がれたお猪口を、三本の指で摘むように持って、そっと、そぅっと口をつける……。

ああ……美味いなぁ……

御託はいらない。口の中に日本酒の香りを残しながら、椎茸にかぶりつこう。

ああ、美味いなぁ……!

原木椎茸の野性味溢れる森の香りと、日本酒の洗練された気品ある香り。何故こんなにも合うのだろう。
また日本酒をチビリ。椎茸をガブリ。繰り返す。
お猪口はすぐに空いて、徳利も追って空になる。肉厚椎茸半分で、徳利一本。椎茸はあと三枚もある。

ひひひ。ゆっくり楽しむぞ〜!

酒を瓶から徳利へと移しながら、にんまりと悪い顔をする。

「いただきます」
兎の絵が描いてある箸を持って、一礼する。
分厚い椎茸は、当然のように美味しかった。

うんうん、やっぱり原木は違うなぁ。

ぐりゅぐりゅとした歯応えと、濃厚な香りを楽しみながら、シークヮーサーの炭酸割りを飲む。
これが日本酒だったら。「作」だったら……。

だいぶ大きくなったお腹を撫でながら、せめて中の子もこの美味しい椎茸を味わっておくれと、語りかけるのであった。

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