「職業の道楽化」は実現可能なのか?
上記はファッションデザイナーのドン小西氏の言葉です。
今までやって来た仕事について、誰しも多かれ少なかれ自負があり、リタイア時は肯定的に「今までよく頑張った。あとは余生としてゆったり過ごそうか」となるものではないか----以前筆者はそのように想定していました。しかし今は小西氏の言われるように「ぽっかり穴が空いたような」虚無感が到来する事も容易に想像できます。
リタイヤ後は何をするのか。20年、30年、もしかすると40年という長い老後生活を趣味三昧で過ごせるのだろうか。そもそもお金は、体はそこまでもつのだろうか。
お金や健康の事を考えると、サラリーマンは定年退職後も働くべきだろう。しかし今までのような働き方はもうイヤだ。そもそも自分はどんな人生後半戦を送りたいのか。
「何もないまま人生を終える人」とは
高倉健さんが生前NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、「映画の中で人生を送る」自分自身について語る場面がありました。
一方「何もないまま人生を終える人」もいっぱいいるという話になり、どんな人が「何もない人」なのかと思って観ていると、
と続けられたのです。多くの人がなかなか到達出来ない人物像を「何もない人」と切り捨ててしまうあたり、当時40歳代の筆者は「そんな心境に自分も到達できるのだろうか?」と感じたものでした。
では健さんにとっての「人生」とは何か。「身を捨てても悔いがないという人間に出会ったかどうか、ということなんじゃないの?僕はそう思ってやってますけどね」と。さすが、健さんです。
とは言え、健さんの域に簡単には達することが出来ない多くの普通の人々は一体何を目指したら良いのか。
人生の最大幸福は職業の道楽化にある
そこで前回のブログ「普通のサラリーマンでも実現可能な資産形成の方法とは?」に引き続き、本多静六氏の著書からヒントを探してみましょう。
字面だけを追うと教科書的というか当たり前の事ばかりなので、特に若い方にはピンとこないかも知れません。しかし50歳以降に読むと身に染み入るものがあるかも、と想像してお読みいただければ幸いです。
前回紹介した氏の著書「私の財産告白」の後半は「私の体験社会学」と題し主に仕事について言及してますが、その中でも以下の文が目を引きます。
皆さんこの「職業の道楽化」についてどう思われますか。
「サラリーマンにとって、そんなの夢のまた夢だよ。みんな土日の休みを楽しみにしているじゃないか。俺は一日でも早くリタイヤしたいよ」と言いたいところでしょうか。
それとも「楽しくて仕方がないと思えた仕事もあれば、やりたいようにやれなかった仕事もあった。組織の中では後者の比率が高かっただろう」という冷静な分析でしょうか。
そもそも「職業の道楽化」とは何か。「好きな事や趣味を仕事にしない」という考え方とは相反するものなのか。本多氏の定義は以下です。
誰しも一度は仕事で「忘我の境地」に達した経験はあるのではないでしょうか。そんな仕事三昧を「継続」できれば、楽しくてしかたがない「道楽」になるのかも知れません。
しかし実感として、組織で働くサラリーマンが現役時代に「職業の道楽化」を完全に実現させるのはなかなか難しいでしょう。そうであれば、せめて60歳以降に「職業の道楽化」が実現できれば、長い老後も充実した日々を過ごせるのではないでしょうか。
では、どうすれば職業を道楽化できるのか。本多氏は以下断言しています。
平凡人としてはそんな努力の継続は「無理」だと弱音を吐きたくもなります。ところが本多氏は「芸術やスポーツ」のような天才が活躍する分野と「職業」とは全く違うというような事を言っています。
野球の世界では「平凡人」がどんなに努力をしても、イチローや大谷選手のようにはなれないでしょう。その一方、職業ではいろんな土俵があり、「平凡人」でもニッチなブルーオーシャンに目を付けて努力を重ねれば、短期間で頭角を現すのも決して夢ではありません。
それでも若い方の中には「努力しなくてもすぐに成功する方法もあるはずだ!」という反論もあるでしょう。本多氏は、戦後のドサクサで誕生した多くの成金を例に挙げて、以下の言葉を残しています。
努力を継続させるには
平凡人が「職業の道楽化」に達するためには、一生涯の絶えまぬ「努力」が必要なのは理解できるが、苦しい「努力」をどうやって「幸福」になるまで継続できるのか。継続する秘訣は何か。ここは各人がどのような工夫を行うのか、に尽きるテーマでしょう。
筆者は「見習いたい、こうなりたいという年長者を知人に持つこと」でモチベーションを維持するようにしています。特に70代、80代で個人で活躍されている方は貴重だと思います(勿論、それは若い方でも構いません)。
そしてもう一つ、筆者には毎年初に心を新たにする「軟らかな決心」という考え方があります。何事も完璧主義の「硬い決心」では、一旦努力の道を外れると元に戻れない可能性があります。一方「軟らかな決心」は、忙しかったり体調が悪かったり気が乗らない時は無理をせず休息期間としながらも、10年20年という長いスパンで目標に向かって努力する。これなら多くの方が取り組めるのではないでしょうか。
最後に努力継続と両輪をなす「気分転換」について、本多氏の言葉を挙げておきます。
老後は細くても良いので長く働く。このことは老後の三大不安(お金、健康、孤独)を一挙に解決できる良薬です。さらに「職業の道楽化」を目指して、楽しい人生後半戦をお互いに目指したいものです。
参考資料:
・「私の財産告白」本多静六氏 (実業之日本社文庫)
・「60歳を過ぎたら友人はいらない」 ドン小西氏 (週刊ポスト2021年7月9日号)
https://www.news-postseven.com/archives/20210703_1671568.html/2
※他にドン小西氏いわく「趣味の合う人と、ほどほどの距離を取りながら、相手に干渉せず、年に2回、2時間位のランチ出来る友人が数人いたら理想。でも、仲良くなると自然に会う回数が増えていき、お互いカンに触る事を言い合う様になり、その内疎遠と言うパターンが多いので、中々難しいです」との事。確かにそれはそうかも知れないですね。
・「プロフェッショナル 仕事の流儀」2012年9月8日放送 高倉健スペシャル
https://www.nhk.or.jp/professional/2012/0908/index.html
・「軟らかな決心」 現代空手道研究会 コラム
http://www.nom.ne.jp/genkuken/yawaraka.htm