おばけと魔法の粉
コンプレックスおばけというのがいる。
おばけは月に一度くらい、たいてい眠る前にやってくる。あるときは美人の友達の顔で、あるときは岩のように大きく重い、壁のような形で。
もしも夜におばけがきてしまったら、頭の上まで布団を引っ張ってガードを作る。布団の中はあったかいから、おばけは布団が嫌いなのだ。
するとおばけは、考えると悲しくなるような事柄をたくさん、たくさんちぎって投げ込んでくるのだ。
気をつけなくちゃと思いつつ、攻撃をいくつかくらってしまいじんわり涙が浮かぶ。
「おばけなんて怖くない」と、自分を奮い立たせて追い返そうとしてみるが、おばけは笑い飛ばして、また悲しみ攻撃を始めた。
おばけの攻撃に押され、いよいよ逃げ場がない、という時に、「魔法の粉」を思い出したのだ。
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魔法の粉の名前はサムラバジャアという。ある日夢の中で、誰かにもらったのものだ。その人は薄い唇で、サムラバジャアを「サム・ラヴァ・ジャア」と区切って発音するのだと言っていた。
色は淡い紫で、サラサラしていて、かぐわしいスパイスのような香りがする。そしてダンゴムシみたいな、小さな紫色の壺に入っているのだ。
サムラバジャアをくれた人は言っていた。「これはあなたが信じる言葉から生まれていて、暗い夜にも光を作ることができる。困った時に振ってごらん」と。
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気がつくと、握った手の中に小さな壺が現れていた。魔法の粉は壺の中からも小さく光を放っている。
腕に力を入れて布団を抜け出し、おばけにバッ と粉を振りかける。
するとたちまち、部屋が明るい光で満足された。一瞬だが、昼のように明るいような光でいっぱいになったのだ。
その明るさにおばけは驚き、体をぎゅうぎゅう縮こめるようにしてあっという間に窓から逃げて行った。
不思議なことにしばらくポカンとし、再び暗くなった部屋で手を開くと、魔法の粉はもうそこにはなかった。
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そのあとわたしはゆっくり布団に戻り、眠りにつくまでずっと、おばけと魔法の粉のことを思い返した。
まぶたの裏には、光のあとがチカチカ、チカチカ、いつまでも残っていた。
いま、「おばけなんか怖くない」のだ!
美味しいお酒を一杯飲んで、そしてそのぶん幸せになります。一緒に呑みましょう。