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彼女のお気に入りのバールにて

九月は少しだけ暑さが和らいだのと、夏休みシーズンが終わって戻って来たり、家族とずっと一緒の期間が終了したりという影響か、人と待ち合わせをしたり、新しい人に出会えたりという社交の機会が普段よりもあった。

二年前にあるパーティーで紹介され、たまたま翌年の同じ機会に再会した女性と待ち合わせをした。

もう少し早くに動けばよいものの、十二月に再会して、七月にようやく連絡したのだが、お互いの都合や体調が優れない等で二ヶ月ごしだった。彼女が国に一旦、帰国しなければならないとのことで、タイムリミットがあったのだ。もしかして、会えないかなぁ……とも思わないでもなかったが、駆け込みで帰国一週間前に約束することができた。

ただ、わたしはその日、微妙な体調で、朝からお腹の調子がよくなかった。
前日のアルコールがいけなかったのか?(ベリーニ一杯しか飲んでいなかったが) 冷えたのか?
とにかく、朝食は取ったものの、昼食は取らず、ひたすら水だけ口にしていた。

「お茶でもしましょう!」ということだったが、何を飲んだら刺激がないかと考えていた。

前日に決まった約束だったが、約束の場所で行きたいバール・カフェなどあるか尋ねてくれた。気になっている店はいくつかあるものの、どこも行ったことはないので……と曖昧なわたしの返事に、彼女が選んで知らせてくれるとのことだった。

約束の最寄り駅に着いた旨をメッセージで知らせると、待ち合わせ場所のバールの名称と住所が送られて来た。それを地図で確認すると、なるほど、わたしが気になって何度か写真に撮っていた店だ。

バールへあと10メートルぐらいのところまで近付くと、彼女がわたしを見つけて手を振った。

このバールはトリノ発の店で、コーヒーへのこだわりがあることを以前にサイトで読んでいたので、コーヒーを飲むのが順当なのだろうなとは思ったものの、その時のわたしの体調でコーヒーは刺激が強くないだろうかという懸念もあった。

屋外席にするか屋内にするか尋ねられたが、その前に内装も見てみる?と促される。
内部は、全体的にシックな黒で、外はまだ明るいものの、ムーディーな雰囲気だった。冷房の効き(寒いという意味で)も気になるし、明るい屋外の大きなパラソルの下の席に決める。
入り口近くのレジの近くのショーケースには、魅力的なケーキやドーナツ、クロワッサン、ビスコッティにパニーニなどが並んでいた。そして、ちょうどレジのカウンターになんとMatchaの文字が画像と共に大きく出ているのを発見!コーヒー云々の考えは吹き飛び、即、オーダーは抹茶ラテに決定!彼女はホットのアールグレイとピスタチオのチーズケーキを。それは、わたしも気になったが最後の一個だと言う。彼女はわたしに譲りたがったものの、NY風のチーズケーキはお腹にもどうかと思い、気持ちだけ受け取り、ラズベリージャム入りクロワッサンにする。それも、どうなのか?と思わないではなかったが、ラズベリーXクロワッサンも好物なので、ついつい誘惑には抗えず。ドリンクには、サービスのジンジャービスコッティーが付いて来た。

サーブしてくれた店員の男性は、わたしたちに英語でオーダーを取った。彼女は英語で応えたが、わたしはイタリア語で応える。彼も風貌からすると外国人なのかもしれない。
彼女はこのバールに何度も来ていると言った。今はイタリア語も話すものの、まだ言葉がほとんど分からない時には、英語が通じる店かどうかを確認し、英語を話す店を選んで利用していたとのこと。だから、この男性店員は、彼女の顔を覚えていて、最初から英語で話したのかも、と。

つい三回目の顔合わせだったものの、彼女の明るく積極的な性格は、会話も一緒の時間も弾んだものにした。
とはいえ、イタリア生活での悩みは絶えない様子で、そのことも口にしていた。何年も前に渡伊して在住しているわたしに、「勇気がありましたねぇ!」と何度となく言う。なかなかこの地の色々な文化(特に、食事)に馴染むのに難儀しているとのこと。
イタリアは比較的に食には恵まれているとは思うものの、インターナショナルな食文化に慣れていると、物足りなかったり、他の料理も渇望して止まないという人もいるのだ。食文化というものは、それだけ生活に密着していて、食が合わないとそこでの生活がかなりキツイという人も。
わたしたちは、この二年間にメッセージなどのやり取りもしていなかったので、そこまで色々な思いを抱えているとは思ってもいなかった。
ただ、過日に話していた他国からUターン帰国のイタリア人女性も嫁ぎ先の新しい土地に二年在住しても、まだ環境に馴染んでいないと言っているので、外国人ならばなおさらのこともあるのだろう。

バールを出て、彼女の買い物に少し付き合い、最後にハグをして、先々の再会を期待しつつ別れる。

わたしは名残惜しく、駅に向かいながらも何回か振り返った。
楽しい時間を過ごせたので、もっと早くからコンタクトを取るべきだったなと心底思った。再度彼女が戻って来るまでにも、連絡をしよう。

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