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その庭に、 #書もつ

デザインをしている人は、それを言語化することに骨を折ってるのではないでしょうか。ややもすれば、難しい言葉を並べて、それらしい雰囲気を装わせることもできるものです。

しかし、優秀な、というか心地よいデザインをする方は、その難しさがありません。

ただ、難しくないからと言って、読み手が分かるかというと、そうもいかないことも(笑)。読み手には素地がないばかりか、さらに想像力も要求されているのです。

デザインの始まり、デザインへの気づき、それは筆者の語る「めざめ」であり、デザインが高尚な存在ではなく、意外なほど身近にあることを教えてくれました。

デザインのめざめ
原研哉

日経新聞で連載されていたという、このエッセイは、西暦2000年が始まった頃の執筆です。世界を震撼させたテロ事件や、日本で起こる巨大地震など知らない時代、そこで書かれていた風景でした。

とはいえ、社会や世界に問いを立てるのではなく、自らの周りの景色に問いを見出す筆者の視点は、やさしさを感じました。

筆者は自らが携わった、ある新書の装丁を例に挙げ、書籍が「いれもの」であると告げたのでした。

こん棒とうつわ。

世界を加工して変容させていく道具と、何かを保存し蓄えるための道具。

人間が長い歴史の中で創造し進化させてきた道具はこの二つの系統に集約できる。
手のひらの装丁 26p

本という形として、知識が大切に保持されていると説く文章を読むと、手のひらを合わせた装丁への思いは、本を読むことへの励ましでもあり、本を手繰ることを喜んでいるのだと感じました。

考えてみれば、筆者の考えることは本になってこうして読まれていくのだから、本を大事にしたい、本の中に知識を保存したいという気持ちには切実さすら感じられます。

筆者の作った装丁は、きっとあの新書だと思うので、今度手に取ってみたいなぁと思いました。


筆者が企画した展覧会「リ・デザイン」の話題には、デザインの醍醐味として、身近な日用品の形を変えた作品が紹介されていました。

坂さんが提案したトイレットペーパーは、〜略〜普通は円筒になっている芯の部分が四角である。

坂さん、とは紙管を用いた建築をライフワークとしている、建築家の坂茂ばんしげるさん。四角いペーパーは、紙を引くたびにカクカクと抵抗があり、取り過ぎを防ぎ、その四角い形は、輸送やストックを効率化させるのだとありました。

その中で、デザインの醍醐味は過程であると書かれていて、それは作者と同じ視点をたどることができるとありました。その製品のデザインの意味を知った時、なぜこの形になったのかを遡れるということなのかもしれません。

この本を読みながら、気がついたというか分かってきたのは、身の回りのどんなところにも、デザインと呼ばれている営みが隠れていて、それは見えるにしろ見えないにしろ、使い手のためにデザイナーという人が考えていた過程なのだということ。

そのことに気がつくと、綺麗さやカッコよさだけではない価値が見えてくるような気がします。さらには、未来に続くデザインの進化も包含しているようにも感じました。


文庫版解説も秀逸でした。本編で紹介された数学者の方が書かれているのですが、言葉の巧緻さや美しさに、数学者という肩書きを疑うくらいでした。


細かい点とそれをつなぐ線、集まって星空のようになっています。infocusさん、綺麗なサムネイルをありがとうございます!

#推薦図書 #デザイン #読書の秋2022  #デザインのめざめ #原研哉


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