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さくらは、僕らを

社会人になってニ度目の春に、僕と友人は京都に旅に出ました。就職活動の始まりが一緒だった友人は、その最初に訪れたセミナーを主催していた企業に就職していました。僕は、別の会社でしたが内定をもらうまでに数ヶ月かかりました。

僕が就職したのは、引越しを扱う会社でした。引越業界の繁忙期と言えば、春。新生活の始まりには引越しがつきものです。2月末から4月の上旬まで、42日間、文字通り休みなく毎日働いた(働かされた)会社からもらった休みは、たった2日でした。

友人はもともと土日や盆暮れ正月に仕事がある職だったので、平日が休み。たまたま、その休みが合うことが分かり、京都行きを決めたのです。

宿だけ予約して、開設間もない品川駅から新幹線で京都へ。お互いにガイドブックを買う時間的余裕もなく、家にあった数年前のものを出してきて、結局開かないままアイスクリームを食べながら、現地で決めよう、ということに。

すっかり季節感がなくなっていたのか、京都駅について驚いたのは、めちゃくちゃ人がいたということ。言わずもがな、観光客が多く、また自分たちも観光客でした。

春・・京都は桜の季節を迎えていたのです。

嵐山、哲学の道、清水寺、祇園・・、どこに行っても人が多く、それ以上に美しく桜が咲き誇っていました。社会人として、厳しすぎる繁忙期の洗礼を浴びましたが、こんなにも京都の桜が素晴らしいものだとは。

いま思い出すと、泣けてきます。

夜、知恩院の奥にある円山公園に散歩に出ました・・ここでも、僕たちは驚かされました。公園を埋め尽くすように、学生たちが花見をしていました。いわゆる”新歓”の季節、花見の名所は格好の集合場所だったのです。僕も大学に入学したときに、同じように花見をしました。新入生と花見をしたのも良い思い出になっていました。

そんな光景を見ながら、社会人になってしまったという後悔のような、学生の懐かしさを感じて寂しくなっていました。たった一年前は学生だったのに。

公園を歩いていくと、ひときわ明るい場所に出ました。階段から顔を上げて、思わず歓声が漏れました。

息を呑む光景。

夜の空にしらじらと照らされた桜が視界を埋め尽くしました。住んでいる地元の桜でさえもゆっくり見られなかったのに。こんなにきれいな桜に会えるなんて、思いつきに付き合ってくれた友人にも、そして京都にも、感謝せずにはいられませんでした。

おつかれさま!大変だったね!

誰かが声をかけてくれたように感じましたが、隣の友人ではありませんでした。きっと、僕は誰かにそう言ってもらいたかったのだと思います。
桜を眺めていたのはたった数分のことでしたが、あの旅のこと、あの春のことは忘れられません。

僕が僕でなくなるようなあのとき、桜が咲いてくれて、待ってくれていたのかも知れないと考えることがあります。毎年、春には桜を見ているはずなのに、社会人になって時間に追われているうちに、桜を見る余裕がなくなってしまっていたのです。

いつかまた、春の京都に行って、円山公園の桜に会いに行きたいと思います。今度は、家族で眺めさせてください。


満開の桜であふれているタイトルフォト、例によってinfocus📷さんに作っていただきました!素材は円山公園の枝垂桜・・いや、できすぎです。ありがとうございます。今回は、原稿が未完のまま「いつものやつね!」とお願いしてしまったので、案が来たとき、あまりにも綺麗で、文章が書けなくなるんじゃないかと心配でした(笑)

#旅 #京都 #桜

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