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ヒロイズム #創作大賞感想

まだ僕が小学生のころ、小さい弟のために特撮ヒーローのテレビ番組をビデオ録画するという役割があった。

いまでこそ、番組名や定番録画などの機能があるが、当時はビデオカセットの残量を見たり、チャンネルや時刻をいちいち設定せねばならなかった。ビデオテープの残量がなくなってしまったり、何かを間違えると、目当ての番組が撮れなかった。

たいていはうまくいくのだけれど、時々失敗して、弟になじられた。

しかし、ビデオの設定ができる人間が、僕と父くらいなもので、平日の日中にいるのは僕だから、結局僕にしか頼れないのもわかっていた。

個人的には、特撮ヒーローはあまり好きではなかった。子どもの僕は、その世界観が恐ろしくて、観ていられなかった気がする。変身ベルトや、ナントカソードの類が欲しいと思ったことはなかった。

特撮ヒーロー番組の映像が浮かぶ頭のなかで、ずっと主人公を探していた。はそやmさんの小説「骨皮筋衛門」を読んだ。

作品のマガジンをフォローした際、説明文にはこうあった。「本気でふざけてます」

ふざける、の語源が気になってしらべてみたら、ほざく→ほざける→ふざける、になったらしい。つまり、ふざけるとは、くだらないことや不適切なことを言う、という様子なのだろう。いまでは、変顔やいわゆるタコ踊りのようなものも、ふざけるの範疇に入ってきている気がする。

ともあれ、物語を読み進めるにつれ、こんなにふざけているのに破綻しないのは、不思議だった。セリフはなかなか個性的だけれど、しっかりと組み立てられている。妄想にしても、かなりきちんとしている。

ふざけていないではないか。

勧善懲悪のヒーローものは古今東西さまざまにある。それは日本人の根っこにある桃太郎もそうだし、水戸黄門も、半沢直樹も、きっとそうだ。社会の悪に対抗して、弱いものを助けたり、あるいは自らを押し上げていく。

必殺技の名前のような効果音のような様態を表す語のような「〇〇」が印象的だ。さらに、潜入捜査、というものは、その組織の一員として入り込み捜査をするものだと、たいていの大人ならわかっている。しかし、この筋衛門の潜入捜査は、物理的に潜って行ってしまう。

どんな俳優さんが演じればいいのか、まったく明るくはないが、映像化したら、きっと仮面ライダー系の特撮モノのようなノリになることは、もはや自明の理である。

特撮ヒーローというのは孤軍奮闘、体一つで敵と対峙している。それは、いわば街におけるソフトの面での防衛を担当していることが多い印象だが、筋衛門は違っている。ハードの面についても、財閥という圧倒的な後ろ盾をもち、街そのものの安全性を高めているのだ。

ひさしぶりに、特撮ヒーロー番組を観たような思いがする。後半の悪ノリは、慣れるまでは読みにく蚊ったが、いつし蚊、すらすらと読めるようになり、「へー、蚊って意外とたくさんの言葉にいるんだなぁ」…なんて思った。

勧善懲悪にしても、悪を描くこと、そして善を描くこと、そこに正当性のようなものが見えて、無理がなかった。

やっぱり、ふざけていない、と思った。


#創作大賞感想 #ヒーロー  

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