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場所と景色 #創作大賞感想

やりたいことなんて、夢だなんて、今の時代にキラキラ言えないよなぁ、という思いがある。

それは僕自身がやりたいことを見つけられないまま、高校行きましょう、大学入りましょう、就職しましょう、転職しましょう、と流されてきたからかも知れない。

今の仕事は好きだけれど、誰にでもできることだし、なんなら日本全国で同じ仕事をしているはずだ。川が流れていれば。

野やぎさんのお仕事小説「波の間にルーズボール」を読んだ。

しまった・・お仕事小説なのに、この展開って・・と焦ってしまった。

いや、そんなの作者の自由だから、主人公がどう振る舞おうと、読み手が応援していればいいのだ・・と、誰にともなく言い聞かせるように読み進める。

生き馬の目を抜くような働きぶりをし続けて、あるときプツンと糸が切れてしまった主人公。生まれ育った島に帰ると、景色も人間関係も変化していた。

地元に残って、仕事をしている同級生の屈託なさに触れ、また恩師の温かな人柄と交わり、気持ちを許せる新しい住民と関わり、それは故郷から離れて仕事をしている者にはきっと当たり前の変化なのだけれども、主人公を苦しめていた何かが変わっていくようだった。

整いすぎて受け取れないこと、きちんとしすぎて気を抜けないこと、それはふだんの暮らしでも感じられることかもしれない。自分の一部が感じられる存在にこそ愛着が湧いてくる、それは子どもでも大人でも一緒なのかも知れない、と思った。

主人公のサラサラとした言葉遣いは、いとも簡単に読み手が物語の中に入り込める。きっと多くの人が、主人公と同じように脳内で独り言を繰りかえし、生きてきているのかも知れない、とも思った。



僕は、仕事をしていると、仕事の意味だとか、誰が喜んでいるかだとか、いや喜ぶって何よ、みたいに自問する時がある。

売り上げという概念の少ない公務員の仕事は尚更「喜び」という主観的過ぎる指標によって評価しがちで、それって仕事なの?と思われるかも知れない。

この小説は、立ち止まる勇気をくれる。

立ち止まって、休んだり、振り返ったり、諦めたり、気がついたり。

走り続けていないと辿り着けない場所もあるが、立ち止まらないと見えない景色もある。

その景色が、とても綺麗だと思ったのだ。立ち止まることを肯定してくれる景色が、そばにある。

きっと野やぎさんの生まれ育った島がイメージされているのだろう。僕も旅した島の景色を重ねたりして、あぁなるほど飛行機の見え方はそうかも知れないなどと思いながら。

物語の人たちの幸せを祈る。



#創作大賞感想 #島

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